職場でも、「助けを求めるカード」を使っていい

具体的には「私は、こういう感情を抱えていて困っています。この状態をよくするために最善の努力をしますから、どうか助けてください」と相手に素直に助けを求める。職場において「助けを求めるカード」を使ってはいけないと思っている人は多いようですが、決してそんなことはありません。

そのカードを使ってみると、こちらが相手を信頼していることが伝わる可能性がありますし、頼みごとをされて幸せに感じる人も多いと思います。反対に自分を頼ってこないから「なんだ、かわいくないな」と威圧的な態度でパワーバランスを示してくる人もいます。自分をとりつくろわず、素直に伝えることは、とても大事なのです。

オンラインで取材に応じてくれた伊藤さん。
撮影=Hiroshi Homma
オンラインで取材に応じてくれた伊藤さん。

実は私自身、過去にこういったパワハラ的な人と仕事をしたことがあります。そのときに怒りで対処する方法もありましたが、それはせず最適な距離感を保ち、これまで絶対に使わなかったカードを使ったことで、結果的に学び合える関係になりました。どんな相手でも、適切に距離をとりながら、対処のカードを繰り出していくことで結果が変わってきますから、あきらめないでほしいですね。私にとって、このときのレッスンはあまりに大きく、今の自分をつくってくれたといっても過言ではありません。

1つの物事には4つの見方がある

いろいろなパターンをお話ししましたが、最後にお伝えしたいのは、苦手な人と巡り会ったときは、自分の成長のチャンスということです。

禅には「一水四見いっすいしけん」という言葉があります。これは一つの水は、四つの見方があるということ。たとえば人間からすると水は飲めるものですが、他の生きものは、全く違うとらえ方をします。天人という天界の空を飛べる生きものなら、水を瑠璃色のガラス板ととらえます。魚からすると、水は住処だし、空気のようなもの。一方、餓鬼という鬼は、火の世界の生きものなので、水とは相いれません。つまり、この言葉は、それぞれがそれぞれの都合でしか、ものごとを見ていないということを意味するのです。

苦手な人と仕事をすることを、運が悪いと捉えるか自分が成長していけるチャンスととらえるかで得られる結果はおのずと変わってきます。「一水四見」を心に留めておくと、どんな環境でも、自分を成長させていくことができるでしょう。

伊藤 東凌(いとう・とうりょう)
両足院 副住職

京都「両足院」副住職。両足院で生まれ育ち、3年間の修行を経て僧侶に。アメリカFacebook本社での禅セミナーの開催やフランス、ドイツ、デンマークでの禅指導など、インターナショナルな活動も。7月には禅を暮らしに取り入れるアプリ「InTrip」をリリース。著書に『月曜瞑想』(アスコム)がある。