攻撃的な物言いをする上司、いつも自慢話をする同僚、何かと反発してくる部下……、どこの職場にも苦手なタイプの人がいますが、いくら苦手な人でも、仕事となると逃げたり避けたりすることはできません。そんなときに自分の心を落ち着けるための禅の言葉とは。禅瞑想アプリ「InTrip」をリリースし、話題を集める両足院副住職の伊藤東凌さんに教わりました――。

「苦手な人とは?」を考える

「苦手な人」と一口にいっても、いろいろなタイプの人がいます。まず、これを細分化して考えてみましょう。私が思い浮かぶタイプは、次の5つです。

① 可能性を阻む人
② 怖いと感じている人
③ 過去に嫌なことをされた人
④ 生理的にいやな人
⑤ 高圧的な態度の人

それぞれについて、順に説明しましょう。

両足院 副住職 伊藤東凌さん
撮影=Hiroshi Homma
両足院 副住職 伊藤東凌さん

新しいことを始めると反発してくる「可能性を阻む人」

仕事上で自分が何か新しい挑戦をしようとすると、反発したり、反対意見を言ったりして可能性を阻む人がいます。生き方が後ろ向きで、愚痴ばかり言っているから苦手と感じる人も多いでしょう。確かに近くにいると、その人のネガティブな影響を受けてしまうので、できるだけ関わりたくありませんよね。

でもどうしても仕事をしなければいけないとしたら。そのときに大切なのは、自分がいっしょに仕事をすることをちゃんと引き受けて、その人とベストな距離感を自分で決めていくということです。すべては自分次第。これを禅語で「主人公」と言います。

主人公というのは、一般的に物語の中心人物を指しますが、禅の場合は、すべて自分が選択したものとして引き受けて、その中で最大限に輝くということをあらわします。

そもそも会社というのは自分で選んで入っているわけですから、そこを引き受けないと、いつまでも環境のせいにして、成長のチャンスを摘むことになってしまいます。そういう生き方はつらい。ですから、会社に入ったことも、その人と仕事をすることも、まずは自分が引き受けることが大切なのです。

新緑もみじにもみじの実
撮影=Hiroshi Homma

コミュニケーションは「実験」の繰り返し

距離感をはかるときは、いろいろと実験してみるしかありません。そうすると「いったん持ち上げると、気持ちを察してくれる」「聞くことに徹すれば、本音で話してくれる」など、距離感の最適解が見つかってきます。コミュニケーションに正解はありません。同じシチュエーションでも相手の気分や、こちらの声色や姿勢で変わってきますので、ていねいなコミュニケーションを積み重ねていってほしいですね。

こうした経験が役立つのは、仕事だけでありません。自分の人生を切りひらいていくときも、アンチになる人や可能性を阻む人が出てきますから、仕事を予行練習ととらえるといいでしょうね。