竹のすべてを活用し、ゴミを出さない工場を
竹ミネラルを作る窯を「聖域」と呼ぶ田澤さん。「化学物質を持ち込みたくない」と、働く人には香水や柔軟剤の使用もやめるようお願いしている。
大事に作った製品の人気が高まってくるのはうれしいが、「正直、ものすごく利益があがる商品ではない」という。「日本酒づくりのように、人の手だけで作るので工程も多い。このまま需要が増えれば、工程を簡略化して大量生産するような競合他社が出てきて、いつか厳しくなるんじゃないかと思っているんです。でも、一過性のブームで終わらせるつもりはありません」
そこで田澤さんがスタートさせたのが、竹の葉から根まですべてを利用できる繊維工場建設プロジェクトだ。
「竹の全ての部位はもちろん、繊維を作る上で出た排水もすべて商品化します。排水といっても、竹と湧き水しか入っていないので飲めるぐらい安全ですし、研究機関に送ったところ、抗菌や抗酸化作用があることも分かりました。これは、化粧品に利用できます。新しい工場ではゴミも出ませんし、排熱も次の商品を作る時に使うのでエネルギーの無駄もありません。7月末には、世界的にも類をみない工場が完成します」
山口は第二のふるさと
「きれいごとを、きれいごとのまま推し進めるには大企業では限界がある」と考え、自ら道を切り開いてきた田澤さんを支えているのは、コロナ禍を機に東京での仕事を辞めて共に山口県に腰を据え、いまやエシカルバンブーの社員として働く夫だ。以前は、1年のほとんどを夫の住む東京で過ごし、時々山口を訪れていった田澤さんだが、コロナ禍をきっかけに、夫とともに拠点を山口に移した。
東京で両親と共に暮らす、兄の存在も大きい。「エシカルバンブーの仕事を手伝ってもらっています。障害があり右半身が動かないので、自宅で、国内外の環境や竹に関するリサーチをして有益な情報を集めてくれているんですが、これが本当に役立っているんです。兄は昔からアメリカに行きたいという夢を持っているので、将来エシカルバンブーが海外進出をしたら、支店を手伝ってもらいたいんですよね」
工場の周辺は自然が豊かで、近くに流れる川にはコイやアユ、スッポンもいる。
「私は資源を使うことを目的とするのではなく、残すことを追求した産業を興したいと考えています。資源を取りつくさず未来のために残すという考え方です。過去に産業を興してきた人の中には、そういった考え方の人物が多かったように思いますし、私もそうありたいと思っています。ですから、『起業家』ではなく、『産業家』と呼ばれたいんです。そして“竹害”ではなく、”竹財”と呼ばれるような有益な資源として、竹を未来に繋いでいきたいです」
文=山脇麻生
1973年東京生まれ。高校卒業後、大手百貨店勤務、カナダ留学を経て大手総合商社へ。その後は大手人材企業、ソニー、外資系ヘルスケアメーカー、博報堂などで広告宣伝やマーケティングを担当。2006年に独立。2008年に竹の有効活用事業に着手し、2016年、山口県防府市でエシカルバンブーを設立。