自分への再挑戦。支えてくれる言葉と変わらない原動力

子どもたちが小学生になり、子育ても少し落ち着いた頃、大野さんはシニアマネジャーに昇進した。セーブしていた仕事をフル稼働させていくなかで、また先のキャリアを考えるようになったという。「定年まで残り10数年で何ができるだろうか……」と。そこで声をかけられたのがチューリッヒ生命だった。未知の保険業界でしかも外資系企業。すべてが新しい挑戦だったが、大野さんは迷いなく飛び込むことを決めた。

2020年6月、まさにコロナ禍での入社となり、初日から在宅勤務に。そのため部内のメンバーの顔もわからず、まして他部署の様子はまったく掴めない。まずコミュニケーションを取ることから苦戦した。なるべく他の人が出社するタイミングで自分も出社して、ランチを一緒に食べたり、まめにTV会議をして仕事以外の話もしてみたり、メンバーとの距離を縮めることを心がけたという大野さん。それでも先の見えない状況ではやはり不安や気苦労も大きかったことだろう。そんなとき支えになったのが「日々笑進」という言葉だった。

「ちょうど仕事も子育ても悶々としていたとき、男性の先輩が『日々笑進だよ』と紙にメモして、そっと渡してくださったのです。悲しい顔をしていても何が変わるわけじゃない。私が笑ってさえいれば周りやチームも笑顔になるから、ちゃんと前へ進んでいけるのだと。そう考えたら、気持ちが少し軽くなって。今でもそのメモは大切に持っています」

常に前を向いて次の目標に向かって進んでいく原動力はチームで働くことの喜びにあるという。実は大学時代、ラグビー部のマネージャーをしていたという大野さん。まさに「One for all All for one」の気持ちが、彼女の生き方にもつながっているのだろう。

歌代 幸子(うたしろ・ゆきこ)
ノンフィクションライター

1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、出版社の編集者を経て、ノンフィクションライターに。スポーツ、人物ルポルタ―ジュ、事件取材など幅広く執筆活動を行っている。著書に、『音羽「お受験」殺人』、『精子提供―父親を知らない子どもたち』、『一冊の本をあなたに―3・11絵本プロジェクトいわての物語』、『慶應幼稚舎の流儀』、『100歳の秘訣』、『鏡の中のいわさきちひろ』など。