「帰宅したら命の保証はない」緊急入院で考えたこの先の人生
刺激あふれる現場は楽しく、夢中で働いていたプロデューサー時代。だが、オーバーワークで身体が悲鳴をあげることになった。
ある日曜日の夜、高熱が出て、背中から腰にかけてひどい痛みに苦しんだ。翌朝、病院で血液検査をすると、白血球の数が激増していた。腎盂炎を起こし、腎臓の機能も悪化していると告げられ、「そのまま入院してください。帰宅したら命の保証はありません」と言われたのである。
大野さんは「一時間だけ家に帰してほしい」と頼むと、会社へ直行。自分がいなくなると現場の進行が遅れ、チームやクライアントに迷惑をかけてしまうと思い、仕事の引き継ぎを行った。そこから入院生活が続くが、仕事のことが頭から離れなかった。
「すると担当の女医さんに『あなたががんばっていることはわかるけれど。良い機会だから、ゆっくり自分の人生について考えてみてね』と諭されて。たしかに自分では『私がいなければ……』と気負っていたけれど、自分が入院していても会社の仕事はちゃんと回っていたのです。私はこのままではもっと体を壊してしまう、それが転機になりました。」
そのとき頭に浮かんだのは、結婚して家庭を築きたいという思い。大野さんは仕事と家庭を両立するため、自分の働き方を変えようと決めた。
子育てと両立中、新入社員に言われたショックな一言
35歳で再び転職したのが、三菱UFJ投信(現・三菱UFJ国際投信)。投資信託はまるで畑違いの分野だったが、それまでの経験を活かして、営業企画部で広告制作やブランディングを任されることになった。育休や時短制度など働きやすい環境も魅力に感じた。
大野さんは入社後に結婚し二人の子どもを授かるが、現実に育児と子育てを両立するのは大変で、子育てをしながら勤務する総合職の女性も少なかった。復職後しばらくは保育園のお迎えもあり定時退社していたが、新入社員の男子に「いつになったら残業できるようになるんですか。仕事量も限られるし、責任ある役職なのにずるいです」と言われたと苦笑する。
「すごくショックでしたが、やる気満々の新入社員の男性には理解できなかったのだと思います。でも、そこで私がひるんでしまっては後輩の女性たちのためにならないと奮起しました。ただ迷惑はかけたくなかったので、自分の仕事は常に整理して共有サーバーに入れておく。また毎日3時くらいにチームでミーティングをして、引き継ぐことをきちんと伝えておきます。今までは人に頼ることが苦手だった私も『ごめん! これ、お願いしていい?』と甘え上手になりましたね」