導入自体、選択制であるべき

これに比べると、日本は失業補償が貧弱で辞めにくいのに、働き方改革や週休3日制などで働きやすさだけ追求している格好です。本来ならば、雇用の外の生活がしっかり保障されているのならば、自然と働きやすい企業しか残りません。このような企業淘汰は、働く人々の選択によって進むのならいいのですが、何らかの制度を導入したがために無理に進んでしまうのは健全とは言えません。

ですから、このような社会保障体制がそろわない条件では、選択的週休3日制は企業における導入も「選択的」であるべきです。もし中小を含めた全企業に導入を義務化したら、副作用はそれだけ大きくなります。今まできつい働き方で雇用を維持してきた企業はもたなくなり、失業者も増えるでしょう。

そうなれば、違法(インフォーマル)に人を雇用したいという企業が増える可能性もあります。イタリアでは、外国人労働者を正規の手続きをとらずに雇って低賃金・重労働の仕事をさせる、いわゆる「闇労働」が問題になっていますが、同じようなことが日本でも、外国人労働者に限らず起こるかもしれません。

企業間格差の拡大、悪用のリスク、一部の企業の淘汰──。週休3日制にはこうした副作用もあるのだということを、私たちはあらかじめ知っておく必要があります。政府はもちろん働く人々もきちんと理解して、その上で政策を進めていくべきだと思います。

少子化改善の効果は期待できない

ちなみに、この制度は少子化対策としても期待されているようですが、私はそれほど影響はないと考えています。そもそも出生率低下の最大の原因は未婚化であり、ここを何とかしなければ大きな効果は望めません。

ともに大企業に勤めている共働きカップルで、週休3日を選んでもあまり給料が下がらないといったケースならば産み育てやすくなるかもしれませんが、こういうケースは割合としてそれほど多くはならないでしょう。

少子化対策にはならなくても、選択的週休3日制には働き方の多様化や私生活との両立などさまざまなメリットがあります。収入が減るという問題はありますが、それを含めても働く人の選択肢が増えるのはいいこと。今後、導入は大企業から進んでいくでしょう。その際には、その後に起こりうる副作用への対策もしっかり検討してほしいと思います。

構成=辻村洋子

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授

1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。