自分を「テストマーケティング」する

人から声がかかる状態になっていないのに、いきなり副業や独立をするのはいばらの道です。まずは、本業で成果をあげることが前提です。「個の時代」というメッセージに煽られたまま、武器を持たずに組織を飛び出してしまうと、取り返しのつかないことになる場合もあります。

私があなたにお勧めしたいのは、「もし仮に、会社の肩書やブランドを外したとき、自分がどのぐらい世の中で通用するのか」を、組織にいるうちに試してみることです。

例えば、ビジネスの世界では、本格的に新商品を出す前に「テストマーケティング」を行うことがあります。テスト段階で、お客様の反応を見てみることで、このまま売れそうかどうかを判断するのです。

個人についても、こういった考え方は有効です。後戻りのできない意思決定を衝動的にしてしまうのではなく、まずは試しに自分がどのぐらい通用するか、チャレンジしてみましょう。

最近では、働き方も多様になり、フルタイム正社員以外の手段で、いろいろな仕事を体験することもできます。仕事の体験までいかずとも、自分の経験や知見をもとにSNSなどで情報発信してみてもよいでしょう。もし、あなたの経験や知見が人から必要とされるレベルであれば、一定の反応があるはずです。

「小さな試み」で自分の強みを知る

自分を「テストマーケティング」することは、以前に比べると、格段にやりやすくなっています。

一方、一つの会社で長く勤めてきた方にとっては、外の世界がわからなくなっているのではという不安もあるでしょう。

企業である程度の勤務経験があれば、会社の中での評価や立ち回りについては、自分なりの意見や価値観が形成されています。こういう人が、いきなり会社の看板なしに外に飛び出ると、「自分がどのぐらい人の役に立てるのかわからない」「自分は何が好きで何が得意かわからない」という悩みが出てきます。

そんなとき、書店やインターネットでいろいろと探してみると、あまりの情報量に戸惑います。どの情報が正しく、自分にとって参考になるのか、手探り状態でいつまでも探し続けるのは大変な苦労が伴います。

そこで試しに、あなたの経験をコンテンツにして売ってみたり、知人の会社を手伝ってみるなど、自分なりにできることをちょっとやってみると、いろいろな気づきがあります。

例えば、そこそこの給料をもらっている人が、自分の知見を有料noteの記事にして販売してみると、300円の記事でも売るのが難しいことを知り悶絶するかもしれません。

また、友人が新しく立ち上げた会社で、週末に数時間仕事をしてみると、スピード感の違いに愕然とすることもあるでしょう。

自分なりに動いてみると、他の人から何らかの形で「フィードバック」をもらえる可能性があります。もし、あなたの行動によって誰かの心がプラスの方向に動いたら、強みの使い方を知るチャンスです。

強みに行動のフォーカスを合わせると、それほどの苦労をせずとも、成果が出るようになります。

自分のお役立ちがどう人の心を動かすのか、感覚でわかることによって、あなたの立ち位置や活動の方向がクリアになるのです。

高橋 浩一(たかはし・こういち)
TORiX株式会社 代表取締役CEO

東京大学経済学部卒。ジェミニコンサルティング(現ブーズ・アンド・カンパニー)で勤務した後、アルーを創業、取締役及び副社長として組織マネジメントに従事。2011年にTORiXを設立して代表取締役に就任。著書に『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)、『なぜか声がかかる人の習慣』『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。