どこからお化けが出るかわかればこわくない

ただし、こういう大きい変化の時期にあっても、周りのペースに巻き込まれず、平常心でいられる人がいます。こういう人たちに共通する特徴は、新しい環境へのイメージトレーニングができること。よくたとえられるのが「お化け屋敷」です。

ご存知の通り、お化け屋敷は、どこからお化けが出てくるかわからないからこわい。でも逆に、ここから出ますよ、というのを知っていれば、こわさがあっても、だいぶましになります。

ですから、新しい環境に入るときも、事前にどういうことが起こるかイメージして、心の準備をしておけば、そこでかかるストレスが減らせます。重要なのは、ここからお化けが出ますよ、という情報ですが、平常心でいられる人は、そういう情報を集める努力ができる人なのです。

平常心は気質ではなく、努力で得られる

新しい会社や新しい部署に入る前に、自分にくる仕事を予測して、周りから聞いたり、勉強したりする。見ることも大事ですから、新しい上司の姿を遠くから見たり、写真でチェックしたりしておく。厳しいと評判の上司でも、実際に見ると「意外に威圧感はないな」と自分なりの感覚をつかめるものです。内示が出た段階で、新しい部署に挨拶に行くのも、ゆくゆくはプラスに働くでしょう。

とにかく変化後のイメージがつくりあげられる情報が多ければ多くほど、変化に強くなります。事前にそういった準備をしておけば、いざというときに平常心を保つことができます。平常心というのは、気質ではなく、努力によって得られると知っておきましょう。

それでも、意に沿わない異動などで、なかなか平常心でいられないこともあります。

そんなときは、目の前の仕事だけでなく、生活全体から価値を見出すようにしましょう。たとえば部署が変わって、前ほどやりがいのある仕事ではなくなったけれど、時間に余裕ができて、読書を楽しめるようになった、あるいは子どもと過ごす時間が増えてよかったなど、生活に焦点をあてる。この環境の変化が、自分の生活にどうポジティブに働いているだろうと視点を変えると、また違った価値が見出せて、平常心を取り戻すことができるのです。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。