自己開示ができない部下に、上司が問いかけつづけたこと

佐藤さんがAmazonへ入社したのは2010年。新卒で大手小売業に就職し、3年間働いた後に転職したのだった。前職では売り上げ向上のための企画や在庫管理など店舗運営を担当。接客が好きで仕事自体は面白かったが、残業続きの生活でふと心が揺れた。

「はたして自分は10年後もこの会社で働いていられるだろうか……」

10年後を想像できなかった佐藤さんは、転職を思い立つ。

そのときAmazonの求人が目に留まり、「プロセスアシスタント」という業務に興味を感じ、応募したという。Amazonの物流拠点(FC)ではさまざまな行程に分かれ、プロセスアシスタントは一つの行程の改善やオペレーション管理などを行う。大阪在住の佐藤さんは堺市にあるFCで出荷の部署に配属され、「ピッキング」の行程に携わることになった。

「お客さまからウェブで注文が入ると、棚から商品を取り出すという『ピッキング』の指示をシステム上で出すのですが、配達日時を守るためにはその日の何時までにトラックに載せるということが決まっています。プロセスアシスタントの業務は、お客さまと約束した日時にしっかりとお届けできるよう、滞りなくピッキングの作業ができているかという管理をすること。さらに現場で働くスタッフが安全に間違いなく、効率良く作業できるようにいろんな改善をしていました」

堺のFCでは大型家電以外のあらゆる商品を扱い、最初はそのスケールに圧倒されたという佐藤さん。異業種で未経験の中、無我夢中で仕事をこなしていく。2年後にはエリアマネージャーに昇進し、初めて部下を持つことになる。現場のスタッフは男性が多く、全員が年上だった。

「どうやってコミュニケーションを取ればいいのかもわからず、常に上司に相談していました。そこで指摘されたのは『自己開示をしなさい』ということです。マネージャーだからといって、弱い部分を見せちゃいけないわけではないのだと。むしろ自分の考えていることをしっかり部下に伝えることで同じマインドで仕事を進められるのだから、意識してやっていくようにと言われていました」

当時はよく上司に叱られていたと、佐藤さんは照れる。自己開示ができていない、オペレーションの際の判断が間違っているのに報告しなかった……と挙げればキリがないが、そんなとき上司には必ず「何が問題だったと思うの?」と聞かれた。なぜそんなことが起きたのか、自分の中でまず要因に気づかせ、それを改善するために何をすべきかを考えさせるのが上司の教えだった。

「叱られては、泣いていましたね。何で自分はうまくできないんだろうと情けなく、悔しくてたまらなかったんです。上司や同僚のサポートがあり、チームとして失敗することはなかったのですが……。失敗することをすごく怖れる自分もいたような気がします」

悩みながらも、さまざまなチャレンジをチームと乗り越えていく中で、仕事への心構えやこだわりなど、現在も指針とするリーダーとしての姿勢を少しずつ学んでいく。そんな佐藤さんに、管理職としての在り方を見つめ直す転機が訪れる。

プレッシャーに苦しみ眠れぬ日々

入社7年目にファンクションマネージャーに昇進。出荷の部署全体を見るリーダーになったのだ。それまでは日々のオペレーション管理や短期的な改善をしていたが、中・長期的なプランを立てていくことになる。コストの管理、数値目標の達成、さらにはメンバーの成長もサポートしていかなければならない。プレッシャーに苦しむ日々が続いたという。

「周りからの期待にも応えなければいけないと思うと、自分にこの役職が務まるのかとすごく不安でした。一カ月くらいは本当に夜も眠れないほどで……」

朝、会社に行くのも気が重く、このまま続けていけるだろうかと不安になる。いっそ違う人がこの部署を見る方がもっといい成果が出るんじゃないかとも考えてしまう。仕事を辞めようとまで思い悩んでいたとき、別のポジションの上司と話す機会があった。

「上司に言われたのは、『失敗してもいいんだよ』という言葉。そのときに心がすごく軽くなったのです。自分の中では求められる目標に何としても到達しなければと思い、失敗は許されないという気持ちがプレッシャーになっていた。でも、『今、お前がいるのは野原や』と。草の上なら転んでも擦り傷で終わる。だから、今のうちにいろんな失敗をしてもいいんだよと、励ましてくださったのですね」

上司のアドバイスに背を押され、佐藤さんは「がんばってみよう!」と心に決める。その矢先に次なる挑戦の機会が舞い込んだ。東京で次のFCを新設するので、その立ち上げをやってみないかと言われたのだ。