たとえ声を上げられなくても
【白河】「声を上げろ」ってみんな言うけれど、やっぱり声を上げられない人はいっぱいいるわけです。全員に声を上げろとは言えないけれど、声を上げてくれた人は多少の小さな意見の相違があっても応援したいです。笛美さんが、「まだ私もわきまえてしまってるんです」って言いながらも、こうやって活動しているのは、本当に素晴らしい。自分のいるところでやるべきことをやるしかないんですよね。
【笛美】私は社会に出て10年以上経っても、まだわきまえ続けていて、若い人たちにばかり声を上げる負担をさせています。また今、声を上げている人たちの多くは学生やフリーランス、自営業など、「会社」という男性の組織で働いていない人が多い。でも世の中の大人の多くは、会社という男社会の中で働いている人です。私はそういう人が声を上げる可能性を広げたいんです。本当は顔や名前を出したほうがいいんだろうけれど、それができないから、この青い顔のままで……。
【白河】今回、誰もが、「もし自分が(森前会長が発言をした)あの場にいたら、どうしただろう」と考えた。日本だけでなく、海外の人も含めた、多くの人たちの怒りや、「何とかしなくては」という思いがありました。それが森前会長の発言を単なる失言に終わらせず、あの発言を生んだ社会の構造を変えようといううねりになった、大きな理由でしょうね。
あの場で笑わずにいられるか
【笛美】ただ、私もあの場にいたら、一緒に笑ってしまっていたかもしれません。
【白河】私はきっと表情は凍ると思いますが、そこで言い返せていたかどうかはわからないですね。
笛美さんのように「もしかすると、一緒に笑ってしまったかもしれない」と思っている人も多いと思います。でも、「次にもし同じようなことがあったら、絶対に笑わないでいよう」という人もいました。次は違うことをしたいと考えた人も多かったと思います。
【笛美】実は私も、過去にそういう経験があるんです。男女のグループで話していたときに、一人の女性がちょっと自虐的な発言をしたのを、周りの男性たちがおとしめるように取り上げて「ガハハッ」って一斉に笑ったんです。いつもなら私は、結構へらへらしている方なので一緒に笑っていたかもしれないんですが、そのときはすごく腹が立って、勇気を振り絞って笑わずにいて、一人で嫌な空気を出していたと思います。
でも後でまた後悔して、その場では何も言えなかったとしても、あとでその女性に、「あそこで笑ったのはちょっとおかしいよね」とフォローするとか、男性にも「あれはちょっとないんじゃないですか」とか言えばよかったと思いました。今回の森前会長の発言を聞いて、その時のことを思い出しました。