まずは事業構造から考え直す
そこで、私たちはこの会社の倉庫などを見せていただいた上で、事業構造から考え直してみることにしました。同会社にとっては、商品を仕入れた後に、それぞれのハブとなる倉庫に商品を入れ、注文を受けて配送センターへ送り、各得意先に納入するという配送ルートがあります。毎日のように納入便が出入りするわけですが、配送ルート単位でP/Lを算出してみることにしました。
単品管理での赤字を把握できたとしても、その単品ごとの仕入れ条件交渉は難しいことがわかったので、配送ルート単位での赤字幅を出せれば、配送ルートの変更や積載率を改善することで収益改善ができそうだと、営業部門と物流部門を巻き込んだ会議の中からみえてきました。
受け渡しの際に発行される納品伝票で差分を見つつ、共通してかかっているコストを計上すれば、配送ルート単位のP/Lの算出自体はそれほど難しくないこともみえてきました。
90日マイルストンを「倉庫を中心とする配送ルート単位のP/Lを可視化する」に設定し直しました。ただ、90日で国内全ての拠点を洗うのは難しいため、ある特定の地域の検証に限定。真の課題に「膨大な伝票の洗い出し」を定め、倉庫の担当者や経理部門などの協力を得て、まずは1カ月分の伝票に対してPoC(Proof of Concept)※を実施しました。
すると、地方配送ルートで生じた不採算性を大都市圏の黒字ルートで補っていたり、売上が大きいナショナルチェーン店への配送ほど実は赤字だったりと、さまざまなことがみえてきたのです。
そこで、90日マイルストンを「配送ルート単位でのP/L改善」に再設定し、ルート変更や積載率の検討などを実施。結果的に「配送ルート単位でのP/L」をDX化し、自社内でビジネスインテリジェンスツールを用いてリアルタイムに算出可能となり、各拠点や現場で管理できるように変えられたのです。
かかった費用はわずか数百万円でした。目標の営業利益率5%にはまだ届いていませんが、数値は2倍程度まで改善できています。
会社がデジタルに弱く、メーカーやチェーンストアとの関係性が強いという(同社の言葉を借りれば)古い業界であっても、問題を分解し、整理することで、目標達成に近づける課題解決がDXによって実現できる事例でした。
※PoC (Proof of Concept):「コンセプトの証明」や「概念実証」とも訳される。新しいコンセプトや概念、理論、アイデアを実証するために、試作開発に進む前段階でのデモンストレーションを指しています。
2003年に早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、リクルートマーケティングパートナーズにて執行役員として活躍。2013年にKaizen Platformを米国で創業。現在は日米2拠点で累計400社以上の国内外のDX戦略の立案と実行を支援。