マネされない商品をどう作るか

ネスレ日本でも新しいビジネスモデルに進む手前では、幾度ものテストをしていきます。「ネスカフェ アンバサダー」ビジネスも同様でした。初期の頃からテストを通じ、その先にきちんと需要があるのを立証してきました。

——つまり、PoC(Proof of Concept)にしっかり取り組んだと。

須藤憲司『90日で成果をだすDX入門』(日本経済新聞出版社)
須藤憲司『90日で成果をだすDX入門』(日本経済新聞出版社)

新しいプロダクトを作るのであれば、競合優位性をプリセットして内包できていることが大切だと考えます。

「ネスカフェ」のコーヒーカートリッジはプリンタのインクのように、基本的に競合製品は使えない仕様です。簡単に模倣されないプロダクトブランドと、コーヒーのシステムは、ITが機能として入る以前から競合優位性がある。つまり、競合が入ってこられない状態でビジネスを広げられるということです。これはコモディティ化を防ぐ戦略として、ネスレ日本では徹底されています。

PoCに際しても、プロダクトは模倣される前提で作ってはいけません。成功した後に、他社へ美味しいところを持っていかれることを避けるためにも、重要だと思います。これは、デジタルの展開だけでは根本的にはできないことのひとつでしょう。

組織のマネジメントに苦労

——DXに着手し始めてみえてきた課題はありますか。

組織横断的なアクションをどのように行っていくのかは、常に課題といえます。僕らの場合は、単純にチャネルをECへ変えるだけではなく、そこにフィジカルなプロダクトが絡むビジネスをしています。その体験自体をプロダクトと再定義し、いかにマネジメントするかという観点で、組織構造を変えることがなかなかできませんでした。

事業部が主導し、どういう人に、どういうタスクをアロケーションし、プロジェクトをマネージするか。利害が異なる部署を動かす難度は高かったです。

ソフトウェア、ハードウェア、EC、お客様サービスという「すべきこと」が細分化されている組織体で、いかに顧客視点でサービスとプロダクトの品質を高めるか。結果的には、単一の組織体としてマネージすべきだったという気づきを得ました。

——DXの現状や手応え、感触は?

道半ばも半ばといったところです。ただ、少なくとも未開拓の市場にスケーラビリティを持って参入することでの先行者利益があるとは思っています。さまざまな事業者が追従してくれるほどに、最初に手掛けたメリットが表れるはずです。

組織として全てトランスフォーメーションできているわけではありませんが、デジタル技術を扱っていく組織としては、短期、中期、長期に分けて「何が必要なのか」がクリアにみえてきたようにも感じます。

現在は部署横断でプロジェクトを回す経験も積めてきました。みんなが「誰と、どの部署と動くか?」を少しずつイメージしていけているようです。

※PoC(Proof of Concept):「コンセプトの証明」や「概念実証」とも訳される。新しいコンセプトや概念、理論、アイデアを実証するために、試作開発に進む前段階でのデモンストレーションを指しています。

須藤 憲司(すどう・けんじ)
Kaizen Platform 代表取締役

2003年に早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、リクルートマーケティングパートナーズにて執行役員として活躍。2013年にKaizen Platformを米国で創業。現在は日米2拠点で累計400社以上の国内外のDX戦略の立案と実行を支援。