2009年のコーヒーマシン販売がブレークスルーに
現在のDXを語る前にブレークスルーとなったのは、2009年に初めて「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」シリーズのコーヒーマシンの販売を開始したことです。
以前は瓶入りのコーヒーをスプーンでカップに入れ、沸かしたお湯を注いで飲むスタイルが一般的でしたが、それも共働き世帯の増加などの世帯環境の変化に伴い、手間だと感じる消費者も増えてきました。このマシンならお湯を沸かす手間が不要で、誰もが簡単にボタンひとつで淹れたてのコーヒーを楽しむことができます。
そこで、マシンではなくコーヒーの主要購買層が利用するリテールに注目し、イオンリテールに限定してマシンの販売を始めました。その2年前に発売したカプセル式のコーヒーマシン「ネスカフェ ドルチェ グスト」も、当初はセブン‐イレブン限定で販売しました。広告についてはインフォマーシャルから展開し、BSやCS、デジタル媒体への展開に広げていきました。マスへのタッチポイントは、やはりリテールが大きいですから、そのように進めてから、ECでの販売に至ったのです。
その結果マーケット認知度が上がることで、新しいコーヒーマシンは家電量販店を中心に売れ筋商品となっていきました。お客様視点で考えればベストな策だったと思います。リテール側にもベネフィットがあり、そこに求めているモノがあれば、コンフリクトは超えられると考えています。
ネスレ日本には「マーケティング部」はない
——需要を作るという観点で、デジタルで顧客と直接つながることで、消費者理解は深まったのでしょうか。
そうですね。むしろ、現在の企業における事業活動が、消費者理解からスタートしていないことが往々にあるのではないでしょうか。
組織として、営業とマーケティングが横並びの企業もあれば、販促とマーケティングが並列の企業もある中で、ネスレ日本には事業部だけがあり、「マーケティング」だけを行っている部署は存在していません。P/Lを持って事業を作るのが使命ですから、チャネルは選択肢にしかなりません。
そのスターティングポイントに立つと、消費者への理解、消費への理解、そして生活動線への理解があってこそ、プロダクトやサービスは生まれると考えています。マーケティングが力を持っていない組織の場合、結果として成功した製品はあっても、それらは顧客ニーズからの逆流で生まれたものということがよくあります。
利便性を圧倒的に上げるプロダクトを作り、それを使って消費するタッチポイントを増やせれば、お客様にも喜ばれる。プロダクトとサービスが合わさることで、良い体験が生まれてくるのだと思います。