相性が最悪な上司に当たってしまったら?

一番難しいのは、異動によって相性の合わない上司と出会ってしまった場合。これで体調を崩す人が本当に多いので、一対一の影響力は相当大きいと感じています。先ほどの、周囲の属性が違って話が合わずなじめないといったケースは、諦めもつきますし、じゃあ仕事で結果を出すしかないなと割り切れることもできます。

ストレス
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けれども一対一の人間関係は無視もできないし、割り切りもできない。うまく適応できなくて、頭痛や吐き気、めまい、胃痛、ひどくなると円形脱毛症や突発性難聴など、体にいろいろな症状が出て、精神科に行くと適応障害という診断がつく。ここまで体調が悪くなって、精神的にダメになる人は、実は少なくありません。

これは部署異動で上司が異動してくるケースでも同じことが起こります。あたりが強い管理職というのは、元いた部署でも問題を起こしているケースがあり、(悪い意味で)社内で有名人であることも多いです。そうした上司に僕たちが話をすることもあるのですが、能力がある程度高いので、一応お医者さんの話は真面目に聞いてくれます。だから、部下側から聞くような、そんなに攻撃的な人なのかなと感じるくらい普通の印象です。でも部下には厳しい、そういう人が多いのです。

部署を離れるだけで症状は改善する

この場合、その部署を離れることが何よりの治療になります。それだけで、ぐっと状態がよくなるということが、よくあるのです。ただ、休職して体調はよくなったけど、また元の部署に戻ると、同じ症状が出てしまいます。ですから本人が戻るときは別の部署に変えてほしい、上司を変えてほしい、間にクッションの役割として誰かをはさんでほしい、といったことは僕たち産業医が、強めに会社に要求することがあります。

ただし、その上司がある程度能力が高く会社に貢献している人であれば、会社としてはそう簡単に変えることはできず、僕らの要求はなかなか通らないことがあります。

昔のやり方と今のやり方は違うのに、上司が昔のやり方を通すことで苦しんでいる人がいることを、会社のほうがわかっていないというのも事実としてあります。そんなときは、別の会社に移ることもひとつの解決策だと思いますね。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。