正直に言ってもらう代わりに、こちらも正直に言う

このとき大事なのは、「遠慮なく、本音を言ってもらう」ことです。

日本企業で壁打ちがあまり行われないのは、「相手が一生懸命考えたプランにケチをつけたら悪い」とか、「相手の仕事に口を出すのはよくない」という遠慮が強いからでしょう。でも私からすれば、みんな「領海侵犯」をしてはいけないと思いすぎている。外資系企業でお互いに意見交換する文化があるのは、相手の率直な意見がどれほど役に立つかが経験的にわかっているからでしょう。

だから壁打ちの相手には「思ったことをなんでも正直に言って。こっちも正直に言うから」と言っておくことです。もちろんそう言ったからには、たとえ何を言われてもムッとしないこと。

そしてもう一つ大事なことは、こちらも相手の壁打ちに快くつきあうことです。

壁打ちを必要とするのは、「ここで最終チェックをしないと間に合わない」とか「アイデアが完全に行き詰まった」というような苦しいときが多い。だから相手に頼まれたらどんなに忙しくても自分も時間をとってつきあう。そういうギブアンドテイクの約束ができていると、非常に仕事がやりやすくなります。

今はリモートワークでみんなバラバラに仕事をしているかもしれませんが、それならzoomなどウェブ会議システムを使って同じことをすればいい。むしろ社内でダラダラやるより、能率がいいかもしれません。

壁打ちによくあるトラブルを防ぐには

壁打ちに慣れてくると、「俺だったらこうするな」というように、相手がいいアイデアを出してくれることがあります。おそらく自分の担当ではないので無責任でいられるぶん、自由に発想できるからでしょう。

何かアイデアを出してもらうと、「却下したら悪いかな」と思ってしまうかもしれませんが、必ずしも採用しなくてもいいし、相手の了承を得たうえで採用してもかまいません。しかし採用した結果、失敗しても成功しても、責任は自分にあります。このことは最初にはっきりさせておくほうがいいでしょう。そこを曖昧にしておくと、相手が「アイデアを盗まれた」と思うかもしれないし、自分も「あの人のアイデアを採用したら失敗した。あの人のせいだ」と思うかもしれない。こういうことにならないように、最初に話し合いをちゃんとしておくべきです。

私や私の壁打ち相手はよく、「いい案出しちゃったな。もしこれ採用した場合は、焼肉な!」などと言いますが、こんなふうに、おごったりおごられたりするのが一番いいかもしれません。

まずは自分から手の内を見せて、意見や感想を求めてみる。そして何か言ってもらえたら、「わあ、すごい助かった」とか、「おかげで大事なことに気が付いた」とお礼を言えば、相手も「いいことをしたな」と思って次からも協力してくれるでしょう。さらに「もし何かあったら、いつでも言ってね。私も壁打ち相手になるから」と言ってギブアンドテイクの関係になること。そうやって壁打ちの習慣をつくっていけるといいですね。

桶谷 功(おけたに・いさお)
インサイト 代表取締役

大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。他に『インサイト実践トレーニング』『戦略インサイト』(ともにダイヤモンド社)など。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っており、消費財・サービス・テック系企業などで実績多数。インサイト オフィシャルページ