「忙しそうで話しかけにくい上司」は無能の証し

しかし、上記を実践できるのは、上司に話しかけるチャンスがあってこそ。「忙しいアピール」や「話しかけるなオーラ」が強すぎて、それすらできないケースもあるかもしれません。

私は、そうした人は上司としてすでに失敗していると思います。「忙しい」も「話しかけるな」も、自分の有能さや優位性のアピールであり、有能感を満たすためのものでしかありません。管理職なら、自分の有能感アップより部下のモチベーションアップを優先させるべきなのに、それができていない時点で無能と言っていいでしょう。

しかも、部下と話す暇がないほど忙しいということは、自分のスケジュール管理ができていないということ。一人で多くの業務を抱え込んでいるのだとしたら、それもまた管理職の役割をはき違えている証拠と言えるでしょう。

部下と対話できずに仕事を抱え込む管理職も

こうしたタイプは女性管理職にも見られますが、多いのはやはり男性。特にコロナ禍以降は、リモートワークなど新しい働き方が普及したこともあって、経験則で対処できない、部下とうまくコミュニケーションがとれないなどの理由から、一人で多数の業務を抱え込んでしまうケースが増えています。

これは、部下に弱みを見せたくない、見せてはいけないという思いも一因になっているのではないでしょうか。男性管理職には、自分が「男だから」「管理職だから」という視点にとらわれていないかどうか、いま一度自己を見つめ直してみてほしいところです。その視点を持つだけでも、後々のつらさはかなり防げるように思います。

そして、こうした管理職を上司に持つ人は、コミュニケーションを双方向へ誘導すると同時に、弱みを見せてもいいのだとさりげなく伝えてみてほしいですね。それが「暖簾に腕押し」な上司、「忙しいアピール」をする上司を減らすことにもつながっていくのではと思います。

構成=辻村 洋子

田中 俊之(たなか・としゆき)
大妻女子大学人間関係学部准教授、プレジデント総合研究所派遣講師

1975年、東京都生まれ。博士(社会学)。2022年より現職。男性だからこそ抱える問題に着目した「男性学」研究の第一人者として各メディアで活躍するほか、行政機関などにおいて男女共同参画社会の推進に取り組む。近著に、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)など。