女性の昇進意欲を高めるための打ち手は

【中田】出産や育児との両立を考えた時、女性は主に「休むとキャリアアップできなくなるのでは」「復帰して両立できるだろうか」という2つの不安を感じるのではと思います。そこで当社では、この不安を払拭すべく、2013年から育休中の社員も昇格対象とするようにしました。また、保育施設や学童の費用補助のほか、法人契約しているベビーシッター会社については利用料金の補助も行っています。

大和証券の人員ピラミッドについて説明する中田社長。〔撮影=小林久井(近藤スタジオ)〕
大和証券の人員ピラミッドについて説明する中田社長。〔撮影=小林久井(近藤スタジオ)〕

育休や時短制度は、必要な時に必要な制度を使ってキャリアを継続してもらうためにあります。当社では育休は3歳まで取得できるようにしていますが、これは決して長く休んでほしいということではなく、個々の事情に合った選択ができるようにという思いからです。今後も「社員の不安の払拭」を根本に据え、支援策をしっかり考えていきたいと思っています。

【木下】男性から「女性を優遇しすぎている」といった声は上がっていませんか?

【中田】当初はあったと思います。表立っては声を上げなくても、内輪の飲み会などで「女性ばかり優遇されるからやってられない」と愚痴をこぼす男性社員はいたかもしれません。しかし、女性には出産というライフイベントがあり得ますし、今の日本では育児負担もまだ女性のほうが大きくなりがちです。その意味で、私は女性に対しては男性より「優遇」ではなく「配慮」が必要だと考えています。

一方で、能力には「個人差」はあっても「男女差」はありません。「男性のほうが能力が高いのに女性を優遇している」と感じる社員がいるとしたら、それはアンコンシャスバイアスそのもの。私から見ればそういう人は大抵仕事もできない人ですが(笑)、会社としても策を打って、おかしなバイアスは早急に解消しなくてはならないと思います。

また女性からも、「同僚が育休をとって子どもがいない私にシワ寄せがきている」といった不満が出ることもあるでしょう。これについては、育休をとる人、穴埋めをする人、その上司や同僚全員が互いを思いやる姿勢が必要だと思います。皆が性別や立場を超えて配慮し合い、大変な時はカバーし合う、そうしたカルチャーを醸成していきたいですね。

【木下】次に女性の意識改革について伺います。大手企業では、いくら育休などの制度を整えても「女性自身が昇進したがらない」と悩んでいるところも少なくないようです。女性の昇進意欲を高めるには何が必要なのでしょうか。

木下明子編集長
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

【中田】女性活躍という目的を果たすには、やはり制度を作るだけではダメで、ある程度の強制力と具体的な数値目標が必要でしょう。管理職における女性比率や男性の育休取得率などで具体的な数値を示し、会社全体がそこを目指しているのだということを、全社員にしっかり伝えなくてはなりません。

ただし、数値目標は現実的なものにする必要があります。当社は、役員に占める女性割合30%を目指す「30%club Japan」に参画していますが、すべての企業がそうあるべきだとは考えていません。業態や男女構成が違えば数値目標も違って当たり前。もともと女性が少ない企業なら、いきなり女性役員比率30%を目指すよりも、今いる女性社員への研修の回数などできる部分から数値目標を決めていくべきです。

そして取り組みを始めたら、焦らずに続けることが大事。たとえ達成が20年先だとしても、今始めなければ20年後も同じ状態のままです。そこを肝に銘じて、できる限り早いうちに最初の一歩を踏み出してほしいと思います。