「19時前退社」が思いがけない効果を発揮

【木下】2007年には、前会長の号令のもと「19時前退社」も導入されました。社内からは不可能だという声も上がったそうですが、どう浸透させていったのでしょうか。

【中田】一つには「強制力」を働かせたからです。当時人事担当役員だった私は、当時の社長から、19時以降も社員が残っている支店の支店長に「時間が守れないなら次の異動候補に入る」と注意するよう言われていました。こうした強制力がなければ、100年以上も続いてきた仕事のやり方を変えることはできなかったでしょう。

大和証券グループ本社社長・中田誠司氏と木下明子編集長
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

同時に、社員にはワークライフバランス推進の重要性を説明し、早く帰るためには日中の行動をどうすべきかよく考えてほしいと繰り返し伝え続けました。その結果、3年ほどで強制が「定着」に変わり、皆が腹落ちして本当に機能するようになりました。

【木下】定着によって思いがけない効果などはありましたか?

【中田】女性が働きやすくなるという副次的効果がありました。退社時間が前もってわかるため、お子さんの送迎などの予定が管理しやすくなったと。また、予定が自己管理できるという点は、男性を含めた他の社員にとっても意外な効果がありました。19時以降の時間を自己研鑽に充てる社員が増え、CFP資格の取得者が増加したのです。今では当社のCFP取得者は1000名を超え、金融業界でトップの人数を誇っています。

新しい制度を導入する時は、必ず反対や不安の声が上がるものです。でも、全体の7割が「いいね」と言ってくれたら、その制度は意義あるものだと思っていい。7割から始めて徐々に賛成者を増やしていけば、そのうち必ず定着するはずです。

【木下】賛成7割でOKだと思えば、導入にもチャレンジしやすいですね。女性の働きやすさについては、退社時間のほか育休や時短などの制度も整えていらっしゃいますが、これらの利用が長期になった場合、キャリアの中断につながるという声もあるようです。