新しい形の介護労働

介護に関わる濃度と頻度はさまざまです。日常的には介護をしていなくても、親の生活が成り立つように、ケアマネジャーやヘルパーと連絡をとりあっているという声も聞きました。

相馬直子,山下順子『ひとりでやらない 育児・介護のダブルケア』(ポプラ新書)
相馬直子,山下順子『ひとりでやらない 育児・介護のダブルケア』(ポプラ新書)

こういった関わり方は、介護保険法が施行されたことによって生まれた「介護マネジメント」とでも呼ぶべき、新しい形の介護労働だといえます。

介護マネジメントとは、ケアマネジャーやヘルパー、地域包括支援員、あるいは主治医など、ケアを担う専門家と連携をとりながら、親の生活を支えていくことです。

そもそも、介護サービスがどうやったら使えるのかを調べたり、実際にサービスを受けるための申請をしたり、ケアマネジャーを見つけるところから、介護マネジメントははじまります。そして、施設への入所が必要となれば、施設を探し、申し込み、入所した際には、施設に通い、必要なものを届けたりします。すべて「介護」の一部です。

介護保険法の施行によって、同居や近居でなくても、介護マネジメントという形で、親の介護に関わるケースが増えています。さらにいえば、遠距離でも親や義理親の介護に関わることが可能になり、より多くの方が「自分は介護している」と認識するようになったといえます。

休職し、娘の保育所も退所して両親を介護

Eさん(那覇市および横浜市、30代半ば女性、パート勤務、子ども2歳)のケース

30代半ばで、2歳の女の子がいます。夫の転勤にともない、沖縄に住みはじめました。父親は癌の手術のあと認知症が進行し、寝たきりになり要介護5、母親は要支援ですが、身体が弱く、一日の大半を横になって過ごしています。

介護している事情を話して美容関係の仕事を休み、2、3カ月に一度、1週間ほど横浜の実家に滞在し、両親の生活をサポートしてきました。

父親が癌の手術で入院した後、母親も疲れが出たのか、1週間後に入院。母親の入院を知らせる電話がケアマネジャーさんから入ったため、とりあえず実家にかけつけましたが、父親の施設探しや母親の退院の援助など時間がかかると予測し、一度沖縄に帰りました。そして娘の保育所の退所手続きをし、自分も休職届を出して、荷物を実家に送り、3カ月前後のつもりで実家に戻ってきました。滞在中に、父親の施設選び、病院から施設への移動、母親の生活のサポート体制を調整する予定です。

2歳の娘が、保育園にやっと慣れたところで退園してしまったので、お友達と遊ぶこともあまりできず、精神的に不安定になっているのが心配です。さまざまな手続きのための役所まわりや、施設見学も、すべて子どもを連れていかなくてはならず、話に集中できないこともあって大変です。

このように、介護保険法の施行によって遠距離での介護が可能になったとはいっても、介護の度合いによっては、近居や同居でなければ支えられないケースも多々あり、子育ても同時進行している場合はなおさら、その負担は非常に大きくなるのです。

相馬 直子(そうま・なおこ)
横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授

1973年生まれ。子どもや女性が自由に生きられる社会の条件や道筋について、家族政策の比較研究から考えている。

山下 順子(やました・じゅんこ)
ブリストル大学社会・政治・国際学研究科上級講師

1974年生まれ。ヨーロッパと東アジア諸国を比較しながら、社会政策が人々の家族関係や介護関係にどんな影響を及ぼすのかを研究する。