最大のネックは昇進・昇格への影響

もちろんそんなことを気にすることなく女性と同じように法定の1年間、会社によってはそれ以上の期間の育休を取得することができる。

しかし、長期の育休の最大のネックとなるのが、連合の調査にもあった「取得すると昇進・昇給に悪影響が出る」可能性があることだ。取得したことで昇進・昇給させないのはパタハラに当たる。ただし、現実は昇進・昇格に微妙な影響を与える。前出の建設関連会社の人事部長はこう語る。

「本当は取得したいけど、取らない人の半数は昇進の評価に影響を与えることを気にしているからだ。当社では40歳までに課長にならないと、その後の昇進が難しいのが実状。30代は重要な仕事を任され、しかも3~4つも仕事を抱えながらライバルと競争している。重要なプロジェクトのメンバーを降りて『育休を取ります』と言えば、ダメだとは言えないが『あ、そう。それでいいのね』となって、結果的に課長のポストをライバルに奪われてしまうことになりかねない。これは差別ではなく、あくまでも昇進候補者の実績を踏まえたものです、と上司に言われれば人事部も文句は言えない」

改正原案が手ぬるいと言える理由3つ

実際に大手企業の中には課長職に昇進する上限年齢を40歳前後に定めているところもある。仕事も波に乗り、昇進が目の前に迫っている30代にとっては「キャリア断絶」を心配し、育休を取ることを躊躇せざるをえないかもしれない。

その点では育児・介護休業法の改正原案は手ぬるいかもしれない。育休申請を拒んだ上司はパタハラ行為として懲戒案件の対象とするべきだろう。また、国家公務員と同じように育休取得に熱心なイクボス上司の人事評価を高くすることも必要だ。さらに昇進年齢の上限を撤廃し、たとえ20代や50代であっても年齢に関係なく、実力があれば昇進することが可能な制度の柔軟化を図るべきだろう。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。