「No」と言える力が、女の子への呪いを解く

男の子への「呪い」について書いたので、女の子への呪いをどう解くかということについても、思っていることを少しだけ書きます。

私には娘も姪もいないので、若い女の子と直接話す機会はなかなかないのですが、もし娘がいたら、やはり性差別構造のことは早い時期から教えると思います。女性のほうがどうしても、社会の構造によって強いられる被差別性を自覚しやすいと思うからです。

弁護士の太田啓子さん
弁護士の太田啓子さん(写真=本人提供)

私自身も何度も被害を経験していますから、女性が性被害に遭いやすいということも、やはり早い時期に伝えるでしょう。社会に対する信頼を育ててほしい子ども時代に、そんなことを伝えるのはほんとうに胸が痛むことですが。

なるべく被害に遭わないための工夫も教えると思いますが、同時に、もし被害に遭うことがあったとしても、絶対あなたは悪くない、悪いのは加害者だ、とくりかえし教えるでしょう。

女の子は男の子に比べて、けんかを避けるよう、いつも笑顔でいるように教えられがちで、個性もあるにせよ、嫌なことをされたときに、すぐに「何をする!」と怒れないことが多いと感じます。その「闘い慣れ」していないところにつけこまれてDV被害に遭う女性をたくさん見てきました。相手が異性でも同性でも、好きな人ができてつきあうことになったら、どんなに好きな相手からでも、嫌なことをされたらちゃんと怒れるように、「嫌だ」と言えるようにエンパワーしてあげたいと思います。

そして、「あなたは性差別に屈しなくていい。私たち大人が可能な限り守るから、あなたもいずれ一緒にたたかう大人のひとりになってくれたら嬉しい」とも伝えたいと思います。

私も呪いと戦いながら生きてきた

私自身が10代のころを思い出すと、いろいろな葛藤がほんとうに強い時期でした。「男の子に好かれたい」という思いはあって、しかし世間でいうところの「モテる」タイプではなかったので、「モテる」タイプに擬態しようとしてみたり、それが上手くいっても葛藤し、いかなくても落ち込み、ということをくりかえしていたような気がします。女性誌で「愛されメイク」とか「モテ力」などの言葉が並んでいるのを見ると、あのころの自分の葛藤を思い出して複雑な思いになります。私自身も「女の子」への呪いにかかって、それに苦労しながら生きてきたと思います。いまは前より呪いを自覚し、うまく折り合えるようになっていますが、それでも完全に解けているかはわかりません。

仮に娘がいたら、「男の子に好かれるためにバカなふりをするのはやめておきなさい」ということは、くりかえし伝えたいと思います。私もかかったことがある罠ですが、これは女の子をほんとうに不幸に、不自由にしますから。

そして、俳優のエマ・ワトソンが2014年に国連でおこなったスピーチを彼女に読ませるかもしれません。

もし、男性として認められるために男性が攻撃的になる必要がなければ、女性が服従的になるのを強いられることはないでしょう。もし、男性がコントロールする必要がなければ、女性はコントロールされることはないでしょう。

男性も女性も、繊細でいられる自由、強くいられる自由があるべきです。今こそ、対立した二つの考えではなく、広範囲な視点で性別を捉える時です。(※3)

こんなふうに視野を広く持って、自分を自分らしく表現して素敵に生きている女性が世界にたくさんいるんだと知る機会を、なるべくつくってあげたいと思います。

※1 小川たまか「『リアルナンパアカデミー事件』裁判で見えた、犯行の奇妙な構図」『現代ビジネス』2019年2月15日。
※2 清田隆之「女子小学生にまで求められる“モテ技”。男はなぜ『さしすせそ』で気持ちよくなってしまうのか」『QJWeb』2020年5月16日。
※3 山光瑛美「エマ・ワトソンが国連スピーチで語ったこと。『なぜ、フェミニズムは不快な言葉になってしまったのでしょうか?』」『Buzzfeed News』2017年10月6日。

太田 啓子(おおた・けいこ)
弁護士

2002年弁護士登録、神奈川県弁護士会所属。離婚・相続等の家事事件、セクシャルハラスメント・性被害、各種損害賠償請求等の民事事件などを主に手がける。明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)メンバーとして「憲法カフェ」を各地で開催。2014年より「怒れる女子会」呼びかけ人。2019年には『DAYS JAPAN』広河隆一元編集長のセクハラ・パワハラ事件に関する検証委員会の委員を務めた。共著に『憲法カフェへようこそ』(かもがわ出版)、『これでわかった! 超訳特定秘密保護法』(岩波書店)、『日本のフェミニズム since1886 性の戦い編』(河出書房新社、コラム執筆)。著書に『これからの男の子たちへ』(大月書店)。