抗原検査で30分で陰性が判明

日本の水際検査は7月末、鼻の穴に綿棒を突っ込むPCR検査に代わって、唾液で調べる抗原検査に変更された。結果が出るまで数時間かかり、本人への通知が翌日以後になることもあったPCR検査と異なり、抗原検査は約30分で判明。PCRで行われていた当時、家族の迎えなどがある人たち以外は、座席にビニールシートが貼られ、車窓を見えないようにしたバスに乗り込み、政府が用意した隔離先のホテルに連れていかれ、結果が判明するまでの滞在を余儀なくされたと聞く。

白黒出ていない段階での「強制隔離」は避けたかったため、政府の方針が帰国直前に変更されたのには「ついていた」としか言いようがない。抗原検査は、隣の人とボードで仕切られた1メートル四方のブースに案内され、手渡された漏斗と試験管を組み合わせて、定められた量の唾液を入れる。余談だが、目の前にはレモンの写真が貼ってあった。唾液を出しやすいように、という配慮なのだろう。

自主隔離2週間の宿泊や移動費用は自腹

結果を待つまでの間、機内で書いた書類をもとに、係官から「今日からの宿泊場所」や「隔離明けの宿泊先」のほか「それらまでの移動手段」「保健所からの連絡手段」などを細かく尋ねられた。日本よりも感染が拡大している国から帰国した人たちを前に、防護服ではなく、マスク姿で淡々と対応する検疫所係官たちの働きぶりには頭が下がる思いだ。一方で、頭の中では理解しているが「こんなことまで、当局に伝えなければいけないのか」との思いも去来した。

その後の結果通知で、陰性ならば問題なく入国できる。ただし、その翌日から2週間の自主隔離が必要だ。私はAirbnbを通じて、15泊で約10万円の都内の民泊一軒家を確保。タクシーも含めた公共交通手段の利用は一切禁じられており、一律1万5000円のハイヤーで移動した。これだけで、それなりの額に上る。そして、これらはすべて自腹だ。羽田で渡された書類には「国内の滞在場所等の手配を済ませて帰国・入国するのが前提」と明記されている。

航空券代はともかく、宿泊・交通費用の全額負担がネックとなり、帰国したくても帰国できない在外日本人たちがいる。ニューヨーク在住の女性が、政府に対し14日間自主隔離中の宿泊先と移動手段の確保を求める署名を集めようと立ち上げたサイトには「お金を持っていないなら帰国してくれるな、とのメッセージが受け取れる」「タイでは政府が隔離施設を用意している」などのコメントが集まった。

日本に帰りたいと願う人の中には、コロナ禍で現地での仕事を解雇されたり、学生寮から退くよう要請されたりした留学生らもおり、金銭的に困窮している人たちもいるはずだ。現金10万円の一律給付を巡る政府・与党内の議論では、海外在住日本人の存在がほとんど念頭に置かれていなかった。海の向こうにいる日本人に対し、もう少し寄り添うような政策が採れないものかと考えさせられる。