居酒屋の様子に背筋が凍る思い

さて、14日間を振り返ると、とにかく長かったの一言に尽きる。不要不急の外出や人との接触は可能な限り控え、公共交通機関の使用は引き続き禁止。羽田で係官に確認したところ、人込みを避けての飲食料買い出しは問題ない、との回答を得ていたため、それに従い行動した。

テレビからは、都内の感染者が数百人とのニュースが毎日のように報じられ、一定の緊迫感が漂っていた。片や、客同士の間隔10センチ足らずで、ひしめき合って酒を飲んでいた店の様子を目にし、背筋が凍る思いをした。世界最悪の感染拡大国から来た身ゆえの「矜持」みたいなものが不思議と沸き起こった。ニュージャージー(NJ)州、ニューヨーク(NY)市はようやく9月に入り、客数を店舗定員の25%に絞った上での店内飲食を解禁したばかりだ。

米国のスーパーはおおむね入店者数を制限しており、行列ができるのが常。その一方、待つことなく、すんなり入れる日本のスーパーに拍子抜けした。スーパーなどの入り口に置かれた消毒液を、退店時に使う人がほとんどいない状況を目の当たりにし、他人に移さない美徳を感じながらも、自分の身を守る必要性を忘れてはならないと感じた。

都内での所用を済ませ、米国に戻ると、検疫検査どころか体温測定もなく、空港からの公共交通機関も自由に使えた。私が住むNJ、お隣NY両州は、日本から来た人に対する14日間の隔離は9月末から一部義務化されたが、それまでは「推奨」にとどまっていた。これとは別に両州などは、感染拡大が続く国内30前後の州からの流入を制限。来た人は14日間の隔離対象とし、違反者には罰金が科せられることもある。

意識のゆるみが起きていないか

日本の水際対策は米国と比べると、充実ぶりに雲泥の差がある。日本での隔離中、厚生労働省からは健康状態を確認する電話が毎日掛かってきた。思想信条を盾にマスクをしない人がいる米国と異なり、ほぼすべての人がマスクを着用。規律正しき日本の姿を再認識するばかりだ。それでも、心のどこかに違和感が引っかかる。Go To トラベルが10月から東京も対象になるとのこと。年内や年明けの衆院解散・総選挙も取りざたされている。

米国よりもいち早く被害拡大に見舞われた日本で、コロナとの共存というよりは、コロナ対策に飽きているような空気感がないと言い切れるだろうか。米国は、秋口になって再び感染者数が増加している。インフルエンザの本格化を前に、単なる杞憂に終わってくれればよいのだが。

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小西 一禎(こにし・かずよし)
ジャーナリスト 元米国在住駐夫 元共同通信政治部記者

1972年生まれ。埼玉県行田市出身。慶應義塾大学卒業後、共同通信社に入社。2005年より政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い会社の休職制度を男性で初めて取得、妻・二児とともに米国に移住。在米中、休職期間満期のため退社。21年、帰国。元コロンビア大東アジア研究所客員研究員。在米時から、駐在員の夫「駐夫」(ちゅうおっと)として、各メディアに多数寄稿。150人超でつくる「世界に広がる駐夫・主夫友の会」代表。専門はキャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、団塊ジュニアなど。著書に『妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』(ちくま新書)、『猪木道 政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。修士(政策学)。