産休後フルタイムで復帰。しかし…

営業から製品開発の業務へ変わったのは2005年。入社6年目で大阪支店から東京本社へ異動し、当時の香辛食品部でカレー周りの製品を担当する。管理栄養士の資格をもつ南さんは、水と混ぜてフライパンで焼くだけでナンを作ることができる〈ナンミックス〉、カレーに甘みやコクを加える〈炒めたまねぎペースト〉など、家庭でも簡単に楽しめる商品に意欲的に取り組んだ。

ナンミックス
ナンミックス

「まったくわからないことだらけで、とにかくがむしゃらに頑張っていた一年でしたね」

自身の生活も大きく変わった。この年秋に社内結婚をして、まもなく子どもを身ごもった。体調が良くなかったので、医師からあまり動かないようにと注意される。やむなく大事をとって産休前から休まざるをえなかった。

南さんは無事に出産し、男の子を授かる。やがて育休が明けると、すぐにフルタイムで職場へ復帰したのである。

「休んだ期間、会社や上司に迷惑をかけてしまったことが申し訳なく、仕事で返さなければいけないという思いが強かった。だから時短勤務はせず、フルタイムで働こうと決めていました」

育休中に夫の実家近くへ引っ越し、義母に協力してもらえるようにお願いした。保育園の送り迎えを頼み、夫も仕事への理解があったので何とか両立できると思っていたのだが……。

もれた弱音に、子どもが返した思いがけない一言

最初の一年は子どもが頻繁に熱を出し、その度、会社を休まざるをえなかった。当時はテレワークも導入されておらず、製品開発部門に“ママさん開発者”はいなかった。そこへ復帰した南さんは、男性ばかりの職場で同じように結果を出さなければと気負いもある。男性社員は当たり前のように残業していたが、ひとり定時に退社するのも心苦しかった。そのため家に帰っても、子どもが寝静まった後にできる作業をこなす。

「寝不足になると体力的につらくて、きつくて、子どもが風邪をひくと一緒にダウンしてしまう。そんな悪循環に落ち込むこともありました。今となれば、なぜもっと上司と話し合わなかったのだろうと思うけれど、私も周りの人には理解してもらえないと勝手に思い込んでいたような気がします」

それでも仕事の達成感が励みになった。子ども用のレトルトカレーを開発すると、息子も喜んで食べてくれる。子育ての経験を生かした商品を開発し、お母さんたちに手に取ってほしかった。そんな思いで必死にがんばっていたが、ふと虚しさを覚えることもあったと、南さんは振り返る。

「私は何のために仕事をしているんだろう。子どもと過ごす時間も限られているのに、何でこんなにがむしゃらにやっているんだろうと。会社を辞めちゃおうかなと思うこともあって……」

あるとき息子とおしゃべりしていて、ふと弱音が漏れてしまった。

「ママ、辞めちゃおうかな、お仕事……」

すると、思いがけない言葉が返ってきた。

「ぼくはがんばっているママ、好きだよ」

その笑顔にどれほど救われたことか。南さんにとって今も胸が熱くなる出来事だった。