1年間のセミナー終盤での大転換

そこから、栗原さんがまず「方向転換しよう」とメンバーに声をかけ、議論の焦点をOBNそのものに再び立ち戻らせたという。

「OBNをどう取り除いていけばいいか以前に、なぜOBNが悪いのか? をメンバーと話し合った回もありました。悪い理由をいっぱい出したんですが、それをさらに掘り進めると、ますます男女間の溝が深くなるだけだということにも気づきました。否定する必要はないんですね。否定に入ると、ますます『やってられるか』という気持ちになっちゃう」

セミナー終盤での大きな方向転換。残された時間が限られるなか、何ができるのかメンバーとともに知恵を絞った。

「他の2つの分科会チームは、OBNの“何がいけないのか”をすでに調べてくださっていたので、われわれの分科会チームでは、社内で活動を広げるフレームワークを作れば発展があって良いのではないかと考えました」

同じ分科会メンバーをトーマツのオフィスに招いて、OBNについてのトークセッションを行う算段を始めたという。OBNは無意識の言動ゆえに、継続しないと忘れてしまう。「せっかく集まったメンバーたちが会社に戻ったまま忘れて“元の木阿弥”では、J-Winが起こした連鎖が止まってしまう。あまりにもったいない」から、セミナーOBが、次やその次の期のメンバーの勤務先を継続的に来訪し、OBNの重要性を説くことができる枠づくりを目指したという。

自分たちが女性の機会を奪っていた、という気づき

自分がOBNに漬かっていることを自覚することで、栗原さん自身の言動にも変化があったようだ。

「管理職のうち誰かが出社しなきゃいけない事態が起きて、誰が出るか決めることになったとき、お子さんがいて簡単に出社できない人がいる一方、『いつでも行けますよ』という独身男性もいます。そこで、①いつでも出社できます、②必要あれば出社します、③全然できません、の3つでアンケートを取ったら、お子さんが2人いて、普段は定時より早く帰る勤務形態の女性の方から、『①』っていう回答が来たんですよ」

気を使っているのでは? と思った栗原さん、「無理してない?」とフォローを入れた。すると、「『実は②だったんですけど、ちょっと空気読んで①って答えました』と。ご自身の状況にもかかわらず、気を使い、無理をしてしまうこともあるのだと実感しました」

栗原さんは、今のご自身なりのOBN観を語った。

「自分たち男性がやりやすいと感じる方法で何かを決めてしまうと、実はそもそも人数の少ない女性の方々が、雰囲気を察して意見を言えなかったのではないか。そういうことが本質なのかなと思っています。自分たちが女性たちの機会を奪っていたという可能性。これからは、本当にそこに気をつけなきゃいけないなと思っています」

当初3月に実施予定だった前述のデロイト トーマツ グループ内でのトークセッションは、コロナにより実現できずにいたが、10月に開催することになった。「半年越しの計画が、やっと実現しますよ」と栗原さんは嬉しそうだ。

構成=西川修一 写真=iStock.com

西川 修一(にしかわ・しゅういち)
ライター・編集者

1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者、プレジデント編集部を経てフリーに。