セミナー初日の通過儀礼

もともと職場の同僚の女性が参加していたJ-Winという組織の存在は知っていた。日本企業を相手に過去13年、ダイバーシティのマネジメント推進を支援してきたNPO法人。参加メンバーは女性ばかりだと思っていたJ-Winが「男性に声をかけている」ときいたことが、そのJ-Winの、「男性ネットワーク」と銘打った通算2期目、月1回・1年間のセミナーに参加するきっかけとなった。

デロイト トーマツ グループ 栗原健輔さん
デロイト トーマツ グループ 栗原健輔さん(写真提供=本人)

このセミナーのテーマは「オールド・ボーイズ・ネットワーク(以下OBN)」。国内外で通用する言い回しで、“マイノリティ”である女性社員のモチベーションを奪ってきた、男性集団の悪意なき言動やその文化全般のことだ。肌の色、宗教、国籍、年齢といったダイバーシティの中でも最も垣根が低いはずの「性別」のダイバーシティを推進するカギである。

「OBNという言葉を、恥ずかしながらまったくきいたことがなく、日本人がイメージする年配のOBの方たちのことをいけないと言っているのかな……など、最初はその程度の理解でした」

そして冒頭のように、セミナー初日から20人ほどの参加者たちを前に、内永ゆか子理事長が「女性活躍が進まないのは男性中心につくられてきた企業カルチャーにも問題がある。この問題は男性にしか解決できない」と“言い切る”のが通過儀礼だ。

「自分たちがここに連れてこられた理由、やらなきゃいけないことについて、当初はみんなまだモヤモヤしていたんです。それが話を聞いて、ああ、これか! と。ちなみに私はセミナー初日に、『女性活躍推進を進めた場合の経営上の効果について数字の根拠はあるのでしょうか?』とお聞きしたところ、『ダイバーシティ推進は数字で表れるものではなく、トップがやると決めてやり抜かないと変わらない』と注意されました」

女性社員が意欲を奪われるメカニズム

OBNは、わかりやすいところでいえば「男性上司が『昔はこうしたもんだよ』と自分の流儀を押し付ける」とか、「社内の物事は男性ばかりのタバコ部屋で決められる」「一緒に歩いたり、食事をしていても、男性はこちらに構わず自分のペースでどんどん進む」等々、悪気のない、しかし大多数の男性が行っていること全般。

その最たるものの一つが、「同期どうしでも、男性はメイン、女性はサポートの仕事を振られる」ことで、必然的に男性のほうが仕事の機会を与えられ、スキルが伸びていく一方で、女性は自分が期待されていないと感じ、やる気を奪われていく……こうした負の連鎖が、OBNの最も残念なところだ。

「どれも男性が心地いいと思っていたこと。それがダメだと言われたのが非常にショッキングで……一気に腹落ちしました。自分はその沼に漬かっていたのかなと」