“10代前半まで”の教育が大事

では実際、幼少期の教育に効果はないのでしょうか? ヘックマンの研究発表以降にも、多くの研究が早期教育の重要性については指摘しています。

早期教育の重要性の鍵として、社会情動的スキルの育成があります。

社会情動スキルとは、非認知能力でもあり、その人の思考や感情、行動の一環したパターンで、学習行動を通じて育まれるもので、環境の変化や介入によって変化させられるものです。2015年のOECDの調査によると、9カ国の調査から、子どもの“社会情動スキル”が、将来のwell-beingの高さ、身体と精神的な健康、問題行動の少なさに関連することが明らかにされました。

さらに社会情動スキルは、将来の認知的スキル(IQなど)の高さを予測することが示されています。そして、この認知的スキルは、将来の学歴、雇用や収入の高さに大きく関与していました。

最も重要なことは、この社会情動スキルの高さは、その後の認知的スキルの高さも予測する、ということです。つまり、早期教育でこの社会情動スキルを育てることができれば、その後、長期的な効果を得ることが期待されるのです。

ただし、早期教育とは、未就学の時まで(5歳)と断定されるものではありません。脳科学者の立場としては、非認知能力と認知能力をつかさどる前頭前野は、10代前半までにかけてダイナミックに変化していくため、早期から小学生時代までの一環した教育プログラムの継続が重要なのではないかと考えます。

子どもの非認知能力を育てる3大ポイント

非認知能力を育てるにあたって重要なキーになってくるのは、自己効力感(自分はできるという思い)、内的動機づけ(やりたいという意欲)、メタ認知(自分のことを正しく理解する力)であることがさまざまな研究から明らかになっています。これらは、“年齢や周りとの比較の中で作る(達成できるかどうか人によって異なる)目標”ではなく、その子が少し頑張ればできる適切な、“その子にあった目標”を与え、達成させてあげることで育まれます。

また、乳幼児期から幼児期前半については、安定したアタッチメント(愛着)の形成が、何より重要であることが明らかにされています。教育プログラム介入を素直に受け入れて効果をあげたり、新しい外界へとチャレンジしていったりするためには、安定したアタッチメントがまず必要になるためです。

乳幼児期に、愛情を与えることによるアタッチメント形成をまずしっかり行い、その子にあった目標を与え達成させていってあげることで、幼児期後半から学童期(小学生)にかけて非認知能力を継続して育てていく。「5歳までに非認知能力を育てよう、と早期教育の重要性が煽られている中、多くの人がまだ知らない最も重要な事実として、”非認知能力の形成(10歳以降でも伸びていく)は、認知能力の形成時期(7~10歳程度)よりも年齢的に遅い”ということがあります。つまり、未就学児の早期教育だけに熱心になることが、人生の成功への近道ではありません。未就学児から思春期・青年期までも一環して、非認知能力を伸ばす教育を考えていくべきなのです。

<参考文献>
・Heckman JJ. Skill formation and the economics of investing in disadvantaged children. Science. 2006;312(5782):1900-1902 
・Rea David, Burton Tony, “New Evidence on the Heckman Curve,” Journal of Economic Surveys, 34(2020), 241-262.
・遠藤利彦(2017)(編)平成27年度国立教育政策研究所プロジェクト研究報告書「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書」.6)OECD(2015).
・Skills for Social Progress: The Power of Social and Emotional Skills: OECD Skills Studies. OECD Publishing
・Multon, K. D., Brown, S. D., & Lent, R. W.(1991). Relation of self-efficacy beliefs to academic outcomes: A meta-analytic investigation. Journal of Counseling Psychology, 38, 30-38. 23
・Schunk, D. H. (1981). Modeling and attributional effects on childrenʼs achievement: A self-efficacy analysis. Journal of Educational Psychology, 73(1), 93-105. 24

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細田 千尋(ほそだ・ちひろ)
東北大学 大学院情報科学研究科人間社会情報科学専攻 及び 加齢医学研究所脳科学部門認知行動脳科学研究分野 准教授

東京医科歯科大学大学院医歯学総合博士課程修了。博士(医学)。JSTさきがけ研究員、東京大学大学院総合文化研究科特任研究員などを経て現職。内閣府ムーンショット型研究目標9プロジェクトマネージャー、ウェルビーイング学会理事、Editorial bord member of Frontiers in Computational Neuroscience、仙台市教育局学びの連携推進室学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト委員会委員、日本ヒト脳マッピング学会広報委員、国立大学宮城教育大附属小学校運営指導委員などを務める。