家事代行サービスが普及しない理由

働く女性の家事負担を減らそうと、家事代行サービスをやってくれる外国人に日本にきてもらう計画があるものの、実際のところ、欧米の国々と比べると、日本ではこの家事代行サービスを利用する人は思いのほか少ないです。

ヨーロッパの中流家庭では、週に何回か数時間に分けて掃除のために家政婦さんに来てもらう「掃除代行」サービスをしばしば利用しています。たとえば毎週月・金に3時間ずつ掃除しに来てもらう、というような形です。もちろん欧米と日本の文化の違いも影響しているでしょう。家事の負担が軽減されると分かっても、日本には「知らない他人を自宅に上げる」ことを躊躇する感覚があります。

そして、これはまた前述の食器洗い機にも通ずることなのですが、「家のことぐらい自分でやろうよ」という考えがここでもまた幅を利かせているのでした。しつこいようですが、ここでいう「自分」とは結局は「妻や女性」です。

ドイツやスカンジナビアなどのヨーロッパ諸国では、今の時代「男性も女性も家事をやる」ため、「互いの負担の軽減のために家事代行を頼む」ことが少なくありません。しかしニッポンでは、どこか家事が「女性担当」という認識があるため、「家事代行」→「女性がラクしたいだけ」→「女性がラクするのはけしからん」という思考が世間でしばしば見られるのでした。

日本では「他人を家に上げる」ことに抵抗のある人が多い上、芸能人の神田うのさんの「家政婦さんに高級ブランドのバッグや貴金属を盗まれた」事件などが大きく報道されたため、「他人を家に入れるのは怖い」というイメージに拍車がかかってしまっています。しかし、口コミで信頼できると評価された人に家事代行を頼めば、このようなトラブルはむしろまれです。

ドイツではよく知り合い同士で、「良いPutzfrau(掃除の人)知らない?」と声をかけて情報交換をし、互いに代行の人を紹介しあったりしています。ここで言う「良い掃除の人」というのは掃除や家事のスキルが高いということに加え、「盗みをしない信頼できる人柄」という意味もあります。

「他人を家に入れるなんて怖い」という感覚も、多くの人が代行サービスを利用すれば、知り合いからの紹介も増え安心できますし、「外部に頼んでいる」という後ろめたさみたいなものもなくなること請け合いです。

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サンドラ・ヘフェリン(Sandra Haefelin)
著述家・コラムニスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)など。新刊に『ドイツの女性はヒールを履かない~無理しない、ストレスから自由になる生き方』(自由国民社)がある。 ホームページ「ハーフを考えよう!