日本がジョブ型になれない最大の原因

日本の会社の人材育成の基本方針は、専門分野を極めたスペシャリストではなく、どの部署でも使えるジェネラリストを育成することです。しかしジェネラリストといっても実際は「社内でしか通用しないジェネラリスト」なのですが、会社としてはそのほうが都合がいい。なぜなら、よそでも通用するスキルを身につけた社員は、転職してしまう恐れがあるからです。

会社は専門技術を持った社員に転職されたくなければ、常にやりがいのある仕事を提供し、本人に「自分はスキルアップしている」という実感を得られるようにしなければなりません。理想をいえば、次から次へと新しいことに挑戦できて、会社の成長と自分の成長が同期しているような状態が望ましいのですが、急にそういう体制を整えるのが難しいことは容易に想像がつきます。

そして私が思うに、日本企業がジョブ型になれない最も大きな原因は、社員教育にあります。

私は日本企業に勤めたあと、外資系の広告会社に転職しました。日本企業と外資系企業の両方に勤めた経験からいうと、そこで受けた社員教育には大きな差がありました。

日本の会社では入社時に新入社員研修を受けたあと、管理職になって管理職研修を受けるまでの数年間、一度も研修を受けないということはザラにあります。特に、職種に限定したスキルアップのための研修はほとんど行われません。

目の前の仕事より研修が大事だとする海外の文化

先日の厚労省の発表によれば、GDPに占める企業の能力開発費の割合は、日本は0.1%。アメリカは2.0%で、日本の20倍。イギリス、フランス、イタリアが1.0~1.7%と、10倍以上を社員の能力開発に使っている。日本だけが極端に低いのです。

実際に、私がいた外資系広告会社では、一度にホテルに4連泊するような泊まりがけの研修が、年に何度もありました。ロンドン本部から派遣される研修専門部隊に最新のプランニングスキルを教わるグローバル規模の研修があり、そのほかにアジア規模での研修があり、さらに日本の現状に即した国内の研修がある。

研修を受けるのは新入社員から社長まで全社員。もちろん内容は違いますが、たとえ社長であろうと、研修を受けなければならないのです。

そんななかでも私の印象にいちばん残っているのは、研修が「絶対参加」であることでした。

「桶谷さん、研修に参加してください」
「えっ、いま、すごく大事なプロジェクトの真っただ中なんですけど、ここで4泊も抜けるんですか?」

と聞くと、

「もちろん」

とあっさり言われる。

「目の前の仕事と研修のどっちが大事かなんて、研修に決まってるでしょう」という文化なのです。