家族観の変化は「お墓」でわかる

介護、実家の維持管理、お墓の3つの問題の中で、私が家族社会学の観点から特に注目しているのは「お墓」です。日本ではしばらくの間、家族や親族の遺骨を共同で納める「家墓いえはか」が主流でした。しかし今、この文化は急速にすたれつつあります。

そもそも、家墓は現在、非常に低い確率でしか維持できません。兄弟姉妹のうち誰かがずっと姓を変えることなく地元で暮らし、かつ同姓の子孫を残す。こんな条件は、現代ではなかなか揃わないものです。

そのため近年では、親族に代わって寺院や霊園が供養を行う「永代供養墓」「合同墓」を選ぶ人が増えてきています。とはいえ、これは比較的若い世代の話であって、高齢者の世代はまだまだ家墓を重視する傾向が顕著です。子どもが遠くで暮らしているのに、相談せずに地元に墓を買って「後はお前が守ってくれ」と言うケースも少なくありません。

子どもからすれば、遠い場所にある家墓を守っていくのは正直キツいでしょう。だからといって、まだ元気な親に「お墓は永代供養墓にしてくれ」とは言いにくい。家墓は、後で悩みの種になることがわかっているのに、子どもからはなかなか言い出せない問題のひとつなのです。

義理の親=他人という感覚が一般的に

冒頭で、近年の夫婦関係では、結婚後も親との関係に配偶者を巻き込まない「個別化」が進んでいるとお話ししました。男女とも義理の親=他人という感覚が広まりつつあり、女性の中には「夫の家墓には入りたくない」という人も増えているようです。見たことも聞いたこともない夫の祖先と一緒の墓に入ることへの抵抗感があるのでしょう。

中には、死後まで夫と一緒にいたくないという人さえいます。ここから考えると、今後は「夫婦は一緒の墓に入るもの」という考え方も薄れていくかもしれません。親との関係だけでなく、お墓も個別化が進んでいく可能性があります。

家墓から合同墓・永代供養墓への変化は、家族関係の個別化が進んでいることの表れでもあります。私がお墓に注目するのは、こうした日本の家族観の変化が如実に表れるからです。ただ、現状の家族観にはまだ世代間ギャップがあり、親世代は家墓派、子ども世代は永代供養墓派と分かれてしまいがち。これが原因になって、親子・親戚間でもめることもこれから増えていくでしょう。

今年のお盆は「帰省できないお盆」。それでも、会えないからと問題を長期化させてしまうのは得策とは言えません。家族・親戚間に気がかりな問題があれば、この機会にぜひ電話などで相談してみてほしいと思います。

構成=辻村洋子 写真=iStock.com

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授

1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。