コロナウイルスの感染拡大で、今年はお盆の帰省をあきらめる人も多いでしょう。そうなると、帰省の際に親きょうだいと相談しようと思っていたことが棚上げに。家族のあり方に詳しい筒井淳也先生が今後、「トラブルを抱える人が増える可能性がある」と予想するワケは──。
母と赤ちゃんは、大母とオンラインで話しています
※写真はイメージです(写真=iStock.com/monzenmachi)

リアルで会えないと話し合いが棚上げに

以前の記事「『父子帰省』で家族全員がハッピーになるワケ」でお話ししたように、近年は夫婦一緒に夫の実家に帰省するのではなく、夫と妻が各自それぞれの実家に帰省する「個別化」が目立ってきています。

自分の親との関係は大事にするが、そこに配偶者を巻き込まない。この考え方はとても合理的と言えるでしょう。

今は少子化が進んでおり、とくに一人っ子の人は自分だけで老いていく両親の面倒を見なければなりません。これは有配偶女性も同様です。「結婚したら女性は自分の親には目をかけない」というのは、きょうだいが多かった時代でしか通用しないやり方です。

また、長寿化も進んでいることから、そうした親と子のつきあいも長期に及んでいます。したがって、高齢の親と成人した子どもの関係は、昔より今のほうが、課題が多いのです。

しかし、このリスクにはまだ気づいていない人も少なくないようです。親子間でよく問題になるのは介護、実家や財産の維持管理、お墓の3つ。いずれも昔は長男夫婦が解決するものとされてきましたが、核家族化が進んだ現代ではそうもいきません。

長男は仕事で遠方にいて、地元で暮らしているのは両親と妹夫婦というケースもたくさんあります。この場合、長男が対面で家族の話し合いに参加したり、両親を世話してくれている妹に感謝を伝えたりできるのは帰省した時だけ。これが帰省できないとなると、話し合いもお礼もすべて棚上げになってしまいがちです。

「コロナが落ち着いてから」が問題を深刻化させる

帰省は将来起こり得る問題を早めに解決するチャンスであり、人間関係をメンテナンスする手立てのひとつでもあります。お盆やお正月に帰省すれば、親の体調の変化に気づくこともできますし、家族のつながりも深まって互いに問題を話し合いやすくなるでしょう。

そのため、少子高齢化している現代でこそ、本来ならお盆と正月には帰省することをお勧めしたいのですが、今年の帰省にはコロナウイルス感染のリスクがつきまといます。国が推奨している「オンライン帰省」も、高齢者には情報機器の操作が苦手な人も多いため、思うようには進まないだろうと思います。

こうした事態は、家族関係にどんな影響を与えるのでしょうか。まず考えられるのは、親の体調の確認や話し合いを要する問題がすべて「コロナが落ち着いてから」と凍結されてしまうこと。でも、その間にも親の高齢化は進みます。直接会えるようになった頃には、体調も問題も悪化してしまっているかもしれません。

もうひとつの影響は、家族・親戚間トラブルの長期化です。介護やお墓、実家の維持管理などにまつわる問題には感情も入ってきますから、話し合いを先送りにすればするほど深刻化する傾向にあります。「コロナ後」を待つことによって、問題が余計にややこしくなってしまう可能性は大いにあると思います。

コロナ後を待たずしてできることはないか

家族にまつわる問題は、いったん深刻化してしまうと人間関係も悪化して、余計に話し合えなくなるという悪循環が生まれることがあります。今は皆が「コロナ後を待つ」姿勢なので表面化しにくいですが、これからは家族・親戚間の長期トラブルを抱える人が増えてくるのではないでしょうか。

このように、「帰省できないお盆」は家族・親戚関係にさまざまな支障をもたらします。帰省できないけれど早めに話し合いたい問題がある──。そんな人は、コロナ後をただ待つのではなく、お盆期間のうちに電話で話してみてはどうでしょうか。

電話には、対面に比べて込み入った話がしにくい、長くなると疲れるといった欠点がありますが、問題を完全に凍結してしまうよりは、多少面倒でも少しずつ話を進めたほうがいいと思います。それが難しければ、簡単な会話をしておくだけでもOK。心のつながりを保つのに役立ち、のちのちの話し合いもしやすくなるでしょう。

家族観の変化は「お墓」でわかる

介護、実家の維持管理、お墓の3つの問題の中で、私が家族社会学の観点から特に注目しているのは「お墓」です。日本ではしばらくの間、家族や親族の遺骨を共同で納める「家墓いえはか」が主流でした。しかし今、この文化は急速にすたれつつあります。

そもそも、家墓は現在、非常に低い確率でしか維持できません。兄弟姉妹のうち誰かがずっと姓を変えることなく地元で暮らし、かつ同姓の子孫を残す。こんな条件は、現代ではなかなか揃わないものです。

そのため近年では、親族に代わって寺院や霊園が供養を行う「永代供養墓」「合同墓」を選ぶ人が増えてきています。とはいえ、これは比較的若い世代の話であって、高齢者の世代はまだまだ家墓を重視する傾向が顕著です。子どもが遠くで暮らしているのに、相談せずに地元に墓を買って「後はお前が守ってくれ」と言うケースも少なくありません。

子どもからすれば、遠い場所にある家墓を守っていくのは正直キツいでしょう。だからといって、まだ元気な親に「お墓は永代供養墓にしてくれ」とは言いにくい。家墓は、後で悩みの種になることがわかっているのに、子どもからはなかなか言い出せない問題のひとつなのです。

義理の親=他人という感覚が一般的に

冒頭で、近年の夫婦関係では、結婚後も親との関係に配偶者を巻き込まない「個別化」が進んでいるとお話ししました。男女とも義理の親=他人という感覚が広まりつつあり、女性の中には「夫の家墓には入りたくない」という人も増えているようです。見たことも聞いたこともない夫の祖先と一緒の墓に入ることへの抵抗感があるのでしょう。

中には、死後まで夫と一緒にいたくないという人さえいます。ここから考えると、今後は「夫婦は一緒の墓に入るもの」という考え方も薄れていくかもしれません。親との関係だけでなく、お墓も個別化が進んでいく可能性があります。

家墓から合同墓・永代供養墓への変化は、家族関係の個別化が進んでいることの表れでもあります。私がお墓に注目するのは、こうした日本の家族観の変化が如実に表れるからです。ただ、現状の家族観にはまだ世代間ギャップがあり、親世代は家墓派、子ども世代は永代供養墓派と分かれてしまいがち。これが原因になって、親子・親戚間でもめることもこれから増えていくでしょう。

今年のお盆は「帰省できないお盆」。それでも、会えないからと問題を長期化させてしまうのは得策とは言えません。家族・親戚間に気がかりな問題があれば、この機会にぜひ電話などで相談してみてほしいと思います。