ここ10年ほどでよく耳にするようになった「おひとりさま」という言葉。結婚観や家族のありかたも変わりつつある今、一人暮らしという生き方をどう捉えていけばいいのでしょうか。家族社会学を専門とする筒井淳也先生に聞きました。
アジアの女性フリーランサーが自宅でノートパソコンに取り組んで
※写真はイメージです(写真=iStock.com/allensima)

「家族礼賛」の風潮には疑問も

近年、生涯独身で過ごす人や一人暮らしの人、いわゆる「おひとりさま」が増えています。こうした人はまだそれほど多くはないだろうと思われるかもしれませんが、実は日本の世帯統計でいちばんのマジョリティーは単身世帯。今や、おひとりさまはまったく珍しくない時代なのです。

この統計には、家族と死別・離別した人や高齢者なども含まれてはいますが、それ以外の単身者も決して少なくありません。しかし、これだけマジョリティーになっても、日本ではまだ「おひとりさまより家族がある人のほうが幸せ」という価値観が根強く残っています。

たしかに「家族を持ってこそ一人前」という昔ながらの価値観は薄れつつありますが、世間一般の単身者に対するイメージは、まだ前向きなものには至っていません。テレビCMなどを見ていても、災害やコロナウイルスの影響もあってか、かえって「家族礼賛」の風潮が高まっているように思います。スマホの契約でも自動車の宣伝でも、「家族で」「家族と」といったフレーズが頻繁に登場します。

家族がいればいざというときも助け合える、一緒に幸福度を高めていける──。私は、そうした無条件の礼賛には疑問を感じます。例えば、子育ても介護も、家族の中でだけ助け合っていては無理が出ます。本来は家族の枠を超えて、友達や地域、ひいては社会全体で負担を引き受け合うべきなのです。