介護、老後資金の不安はどう克服するか

次に、老後の備えについて考えてみます。お金の面では、おひとりさまは配偶者の稼ぎを当てにできないため、自分で貯蓄していくしかありません。これはデメリットのように見えるかもしれませんが、家族のいる人は住宅費や教育費などで支出が多く、貯蓄もなかなか増えにくいもの。老後の資金問題は、おひとりさまに限らない皆の問題です。

介護の面ではどうでしょうか。自分を介護してくれる人がいないという不安は、おひとりさまのほうが大きいかもしれません。ただ、それは自分が要介護になったときに配偶者が元気である場合の話。家庭のある人は、介護してくれる人がいるという安心感がある反面、配偶者の介護で悩むこともあるでしょう。

施設やケア・見守り付きの住宅でのシェアという選択肢もあるでしょうが、こちらは家族ではない人との「つながり」を持つスキルがないと、孤立したりシェアする仲間がいなかったりするでしょう。この点では女性の方が期待が持てるかもしれません。

そもそも、介護などの問題は社会全体で引き受け合っていくべきもの。家族の有無にかかわらず、「困ったときはお互いさま」という感覚で助け合える社会を目指すべきではないでしょうか。そうでなければ、おひとりさまも家族を持つ人も、苦しむことになってしまいます。家族がいない人は、いないからキツい。家族がいる人は、いるからキツい。いまの日本はこれに近い状態です。

「日本の家族」に潜むリスク

日本社会には「小家族主義」という特徴があります。これは、少人数で構成された家族を他の共同体より優先する考え方。家族のことは家族で支えるという考え方でもあります。そのため、家族の問題は外部に相談することではないとして、困ったことが起きても家庭内だけで解決しようとしてしまいがちです。

しかし、それでは家族の負担は増すばかり。外部に助けを求めなかった結果、介護や家庭内暴力が殺人にまで至ったケースもありました。友達や専門家には相談しない、迷惑をかけるべきではないという姿勢は、「家族=迷惑をかけてもいい相手」という考えの裏返しでもあるのです。

「家族礼賛」の風潮に流されないで

おひとりさまのデメリットについて考えてきましたが、結論として、私には特に思い当たることはありません。他者との関わりでも老後の不安でも、内容は違えど悩みがあるという点では皆同じ。家族には家族ならではの大変さがあります。

男性のおひとりさまには難しさもありますが、最近はインターネットでの交流も盛んですから、何らかのコミュニティーに参加できる可能性は大いにあるでしょう。

今おひとりさまの女性は、前述の通りそれほど不安になる必要はないと考えます。むしろ私としては、家族礼賛の風潮に無理して合わせようとするほうが心配です。誰もがさまざまな生き方を自由に選択できる、そして誰もがそれを許容する、そんな社会であってほしいと思います。

構成=辻村洋子 写真=iStock.com

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授

1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。