有給のスタッフが支援を支える

その後、「女性の家」の活動を、資金や人手を提供することで支援するグループ「女性の家支援団体」ができ、協力者たちが増えていった。そしてこの団体の支えにより1979年、これまで賃借していた建物を買い取って改築することで拠点をさらに整備した。当時、設立に関わったDさんは「女性が逃げ込んで来る場所としてだけなく、女性たちが自立して人生を歩んでいけるよう支援する場所だった。今でもその方針で運営している」と話す。

当初はみなボランティアで活動していたが、「ソーシャルワーク(社会福祉活動)は社会全体で支えるものであり、質の高い活動を長期的に維持するためには、スタッフも有給であるべき」との意識が高まった。そして、政党に対し、女性の家の運営を支えるための助成金を新設することを求めるなどの働きかけを行い、1984年にようやく実現した。

当時は、女性の家の(人件費を含めた)運営費の半分程度を助成金でまかない、残りは寄付などで運営していたが、現在は大半が助成金だ。支援の必要性を知ってもらうための広報活動にも力を入れ、他都市の女性の家との交流も活発に行っている。

国際化する「女性の家」

最近では難民や移民の被害者女性も増え、「女性の家」も国際化してきた。取材した「女性の家」でも、トルコ語やロシア語などさまざまな言語でホームページを用意し、移民の背景を持つスタッフがいるなど多言語でサポートをしている。ドイツ政府が運営するDVのホットラインでは、17カ国語でメールやチャット、電話の相談を受け付けている。

ハノーファーの「女性の家」のホームページ。13カ国語に対応している。
ハノーファーの「女性の家」のホームページ。13カ国語に対応している。 http://www.frauenhaus-hannover.org/other-languages/english.html

ドイツでは、11万人以上がDVの被害を受けているとされているが、全土の「女性の家」の受け入れ可能数は合計6400人分しかない。まだまだ足りておらず、課題は多い。

日本でも、年間11万件以上のDV相談があるというが、被害者の支援体制は十分とはいえないようだ。民間団体が運営するシェルターの数は少ないうえ、財政的に厳しいところが多く、政府が財政支援を強化し始めたのはここ1、2年のことだという。政府や自治体が財政的にも民間団体を支え、一体となってDV被害者支援に取り組むドイツとは対照的だ。

根本解決には、女性が尊重させる社会の実現が必要だが、まずは被害者がすぐに助けを求められるよう、相談窓口やDVシェルターを整備することが必要なのではないだろうか。

田口 理穂(たぐち・りほ)
在独ジャーナリスト、独日法廷通訳

日本で新聞記者を経て、1996年よりドイツ在住。ドイツの政治経済、環境、教育についてさまざまな媒体で執筆。 著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか』『市民がつくった電力会社 ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』、共著に『『お手本の国』のウソ』など。