労災認定基準も改善

②と③については社員にとっても深刻な問題だ。たとえば過重労働で過労死した場合、現行の労災保険の補償が受けられる過労死認定基準は時間外労働が1カ月100時間を超えて働いていた事実が要件になる。しかし現状では1つの会社の労働時間でしか判断されず、2社で働き、100時間であっても労災認定されない。また副業先で事故に遭った場合も不利になる。労災事故が発生し、社員が入院し、休職を余儀なくされた場合、病院にかかる療養給付や休職中の休業給付が受けられる。だが、副業先で災害が発生した場合、休業補償給付の給付基礎日額の算定は副業先給与のみで算定し、本業の給与は加味されない。副業先の給与が低いと少ない金額しか給付されないことになる。

だが、この問題については2020年3月に国会で成立した労災保険法の改正で解消されることになった。複数の会社で働き、長時間労働による脳・心臓疾患や精神的疾患や過労死に至った場合、本業と副業先の負荷を総合して労災認定を行い、保険給付を行うことになった。当然、過労死認定基準の労働時間も副業先での労働時間も通算される。また、労災事故の療養給付の給付基礎日額も本業と副業先の給付基礎日額を合算したレベルの金額が支払われることになる。

副業容認が一挙に加速する可能性

残る①の副業先との労働時間を通算して発生する企業責任の問題については、7月17日に閣議決定された「成長戦略実行計画」に検討することが盛り込まれた。具体的には①本業の所定労働時間(残業抜きの会社の勤務時間)を前提に、通算して法定労働時間または上限規制の範囲内になるように副業先の労働時間を設定する、②本業で残業させる必要がある場合は、あらかじめ労働者に連絡して、規制の範囲内におさまるように副業先の労働時間を短縮させる――。

この2つの処置をとることで本業の会社は従来通りの労働時間管理をすればよく、もし社員の申告漏れや虚偽申告を行った場合は、副業先での超過労働で上限時間を超えても本業の企業の責任は問われないことにする。以上について現在、厚生労働省の審議会で検討されている。多少、企業側に都合のよい考え方であるが、もし実現すれば労働時間通算の負担は減ることになるだろう。

それによりこれまで障害となっていた企業の懸念事項が解消されることで副業を容認する企業が一挙に加速することは間違いないだろう。

「キャリアの自立」がキーワードに

加えて、今回のコロナ禍のリモートワークによって働く人の意識も変わり、副業ニーズはこれまで以上に高まっている。エンワールド・ジャパンの「新型コロナ禍におけるキャリア・転職意識調査」(2020年5月19日~21日、4636人)によると、新型コロナウイルス感染症の流行拡大によって「今後のキャリアや転職についての意識が大きく変化した」・「少し変化した」の合計は74%。どのように意識が変わったかについて、多かった回答は「リモートワークが中心となる新しい働き方を希望」(51%)、「個人の能力・スキルアップへの意欲向上」(46%)、「会社に依存した働き方への不安」(40%)、「副業・ダブルワーク等により副収入を増加したい」(34%)――などである(複数回答)。

共通するキーワードは「キャリア自立への目覚め」だ。従来の時間や場所に縛られた働き方ではなく、リモートワーク中心の自由度の高い働き方を志向し、その中で能力やスキルアップを目指す。その有力な選択肢としてスキルアップと同時に本業だけに頼らない収入を得る副業をやりたい――とも読み取れる。