部下が期待に応えたくなるような上司とは

一方、「期待を示す」というのは、あくまで示しているだけで、その行為自体に「他責」というニュアンスは含まれていません。ですから、「期待を示す」場合に大切になるのは、相手がその期待に応えたいと思ってくれるかどうかです。

みなさんはどんなときに「期待に応えたい」と思うでしょうか。

知らない人や好きでもない人から期待を示されて「応えたい」と思う人はほとんどいないと思いますが、尊敬している上司から期待を示されたらどうでしょうか。きっと多くの方が自発的に期待に応えようと思うはずです。

すなわち、示された期待に応えようとするかどうかは、自分と相手の関係性によるということです。期待を示した人のことを尊敬していたり大切に思っていれば、相手はその期待に応えようとするでしょうし、良好な関係でなければ残念ながら期待に応えようとは思わないでしょう。

ですから、まず上司は「期待するのは一方的な感情である」と理解すべきであり、部下に期待に応えてほしいなら、それ相応の信頼関係を上司のほうから構築しようとしなければなりません。そうした関係を築けてはじめて、部下が自主的に動いてくれるということを理解すべきなのです。

メンタルヘルス不調者を出さない組織のリーダーはそのことを熟知しています。日頃から良好な人間関係を築いていれば、期待を示すだけで部下が自主的に、やらされ感なく、やりがいをもって働きます。だからこそメンタルヘルス不調者が出にくいのです。

このように、上司が、その部署やチームのメンバーのストレスに与える影響はとても大きいものと言えます。

そりが合わない上司・同僚とはどう接すればいい?

期待に関するもう1つの勘違いは、同僚や上司など周囲に対する高すぎる期待です。

言われてみれば当然ですが、職場の上司、同僚、部下で構成されるチームは、相性の合う仲のいい人間の集合体としてつくられたものではありません。会社としての業務を完遂するために、集められた人が働くのが「職場」なのです。

もちろん、職場の人間がみな仲良しということであれば、それは素晴らしいことです。しかし、気が合う人、合わない人がいるというのが通常の姿でしょう。それでも、同じ目標を持ち、その達成に向けて就業時間内は協力し合うのが職場です。

それなのに、なぜか人は、初対面ではなく、それなりの期間一緒に働いているというだけで、同僚に対して、「言わなくてもわかってくれるだろう」と勘違いしてしまうのです。同じ営業畑で働いてきたから、同期入社だからと、自分と“近い関係にある”と勝手に考えて、察してくれるだろう、やってくれるだろうという「高い」期待を持ってしまいます。

職場にはいろいろな人がいる以上、常に相手のことをしっかりと見る、知る、聞く、理解する、伝える、確認する、そして信頼関係を築くといったコミュニケーションをとることが必要なのに、それを次第に忘れてしまうのです。

そして、勝手に期待しているのに、期待と違う行動をされると、不満、不快、不安を感じ、ストレスを感じてしまう……。

そうならないためにも、会社で働くということは、学生時代のように、仲のいい、気が合う人たちと過ごすことではなく、いろいろなタイプの人と一緒になって目標に向かって働くことだという前提に立ち返る必要があります。