職場におけるマウンティング、やっかみ、陰口……。人間関係にストレスを感じている人は少なくありません。産業医の武神健之さんは、そのストレスの根底には2つの勘違いがあると指摘します。

※本稿は武神健之『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

穏やかな女性エグゼクティブ
※写真はイメージです(写真=iStock.com/fizkes)

メンタル不調者をよく出す上司の口癖

職場の人間関係にストレスを感じる原因の根底には、「期待」に関する2つの勘違いがあります。

1つめは上司から部下への高すぎる期待です。

部下にメンタルヘルス不調者をよく出す上司と話すと、「○○さんには期待していたんだけどなあ」と言われることが頻繁にあります。一方、メンタルヘルス不調者を出さない上司は、そのようなことを絶対に言いません。なぜなら後者の上司らは、期待は部下に「するもの」ではなく、「示すもの」だと知っているからです。

では「期待する」と「期待を示す」との違いはどこにあるのでしょうか。

まず、「期待する」は単に自分が期待するという行為であるにもかかわらず、その期待に応える責任は相手に委ねられてしまっています。しかし、よくよく考えてみると、期待をしているからその期待に応えよというのは、無茶な話です。

別の言い方をすると、「期待する」のは上司の勝手な行為なのだから、その責任は上司にあるはずですが、いつの間にか期待に応えることが相手(部下)の責任になってしまっているわけです。つまり、「期待する」という行為の根底には「他責」的な発想が横たわっていると言えます。

部下が期待に応えたくなるような上司とは

一方、「期待を示す」というのは、あくまで示しているだけで、その行為自体に「他責」というニュアンスは含まれていません。ですから、「期待を示す」場合に大切になるのは、相手がその期待に応えたいと思ってくれるかどうかです。

みなさんはどんなときに「期待に応えたい」と思うでしょうか。

知らない人や好きでもない人から期待を示されて「応えたい」と思う人はほとんどいないと思いますが、尊敬している上司から期待を示されたらどうでしょうか。きっと多くの方が自発的に期待に応えようと思うはずです。

すなわち、示された期待に応えようとするかどうかは、自分と相手の関係性によるということです。期待を示した人のことを尊敬していたり大切に思っていれば、相手はその期待に応えようとするでしょうし、良好な関係でなければ残念ながら期待に応えようとは思わないでしょう。

ですから、まず上司は「期待するのは一方的な感情である」と理解すべきであり、部下に期待に応えてほしいなら、それ相応の信頼関係を上司のほうから構築しようとしなければなりません。そうした関係を築けてはじめて、部下が自主的に動いてくれるということを理解すべきなのです。

メンタルヘルス不調者を出さない組織のリーダーはそのことを熟知しています。日頃から良好な人間関係を築いていれば、期待を示すだけで部下が自主的に、やらされ感なく、やりがいをもって働きます。だからこそメンタルヘルス不調者が出にくいのです。

このように、上司が、その部署やチームのメンバーのストレスに与える影響はとても大きいものと言えます。

そりが合わない上司・同僚とはどう接すればいい?

期待に関するもう1つの勘違いは、同僚や上司など周囲に対する高すぎる期待です。

言われてみれば当然ですが、職場の上司、同僚、部下で構成されるチームは、相性の合う仲のいい人間の集合体としてつくられたものではありません。会社としての業務を完遂するために、集められた人が働くのが「職場」なのです。

もちろん、職場の人間がみな仲良しということであれば、それは素晴らしいことです。しかし、気が合う人、合わない人がいるというのが通常の姿でしょう。それでも、同じ目標を持ち、その達成に向けて就業時間内は協力し合うのが職場です。

それなのに、なぜか人は、初対面ではなく、それなりの期間一緒に働いているというだけで、同僚に対して、「言わなくてもわかってくれるだろう」と勘違いしてしまうのです。同じ営業畑で働いてきたから、同期入社だからと、自分と“近い関係にある”と勝手に考えて、察してくれるだろう、やってくれるだろうという「高い」期待を持ってしまいます。

職場にはいろいろな人がいる以上、常に相手のことをしっかりと見る、知る、聞く、理解する、伝える、確認する、そして信頼関係を築くといったコミュニケーションをとることが必要なのに、それを次第に忘れてしまうのです。

そして、勝手に期待しているのに、期待と違う行動をされると、不満、不快、不安を感じ、ストレスを感じてしまう……。

そうならないためにも、会社で働くということは、学生時代のように、仲のいい、気が合う人たちと過ごすことではなく、いろいろなタイプの人と一緒になって目標に向かって働くことだという前提に立ち返る必要があります。

職場における妬み、やっかみにどう対処するか

会社で働いて数年経つと、誰もが気になってくるのが自分の昇進についてです。新卒で入社した会社に生涯勤める「日本的雇用」においては、「入社何年で係長」「入社何年で課長」というように自動的な昇進制度がありました。

しかし、中途採用や転職が珍しくなくなってきた現在では、社歴の長短が昇進に影響するのか、上司のお気に入りが昇進するのか、はたまた実力や人望なのか、どうもはっきりとしないことが多々あります。

そのような中、自分ではなく他人(同僚)の昇進や評価が気になって仕方がないという人がいるのが世の常です。ただ、人の昇進を妬みやっかむ気持ちも、自分の昇進を妬みやっかまれることも、どちらも仕事の妨げとなるばかりか、不要なストレスの原因となってしまいます。

産業医面談を通じて感じるのは、実際に昇進(出世)する人は、妬みややっかみの感情のない世界で働いていることが多いということです。彼らは日頃から、そのような感情と無縁な人々と関係性を構築したり、自分の気分を仕事に持ち込まないようにセルフコントロールしているのです。ここでは具体的な実践法をご紹介します。

役職至上主義の人たちとは、そこそこの付き合いしかしない

役職とはあくまでも業務遂行のうえでの役割です。間違っても、役職の上下は人としての上下ではありません。つまり、上司が人間的に優れているという意味ではないということです。

しかし、残念ながら、職場の役職の上下を人間としての上下と勘違いしている「役職至上主義者」はどの会社にも一定数います。

職場の人間関係に悩まず出世する人たちは、このような人たちにも上手に対応します。自分より上の役職の役職至上主義者に対しては、人としての付き合いはそこそこにして、役職に応じて役職の分だけ「上」として対応します。一方、自分よりも下の役職の人に対しては、役職の区別は明確に保ちつつ、人として対等に接しているのです。

「手柄泥棒」とはどう付き合うべきか

職場には、一緒に働くことで、こちらの仕事の効率が落ちてしまうけれど、一緒に働かないわけにはいかない人がいます。そのくせ、いざ仕事がまとまると、人の成果(手柄)を横取りしようとする――。そんな手柄泥棒が少なからずいることも事実です。

武神健之『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』(PHP研究所)
武神健之『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』(PHP研究所)

では、このような人にはどのように対応するのがよいのでしょうか。

職場の人間関係に悩まず出世する人たちは、手柄を横取りされる前に、その(厄介な)人の上司に対して、あえて自分から「○○さん(厄介な人)のおかげです」と、その人をほめ、感謝の言葉を伝えるのです。

これを続けると、その厄介な人にとってあなたは必要不可欠な存在となり、あなたを無下にはできなくなっていくでしょう。また、次第に厄介な人の上司は「本当は誰が価値を提供しているのか」をわかってくれるはずです。

言葉を選ばずに言えば、まずは、そのときまで手柄泥棒を泳がせてしまおうということです。

職場マウンティングや陰口への対処法

世の中には、自分に自信がないぶん、他人を落とすことにより、自分の優位性を保とうとする人たちが一定数います。目の前でこれをやられれば、いわゆるマウンティング、あなたのいないところでやられるなら、それを陰口と言います。

職場の人間関係に悩まず出世する人は、マウンティングされそうになっても、相手と同じ土俵には立ちません。その会話はそこで終えてしまうか、スルーして別の会話に移ります。

陰口もまた気にしないのが一番です。それでも陰口が耳に入ってきたなら、「陰口を言われているよ」と教えてくれた人に「事実ではない」と伝え、誰から聞いたかを確認するようにしましょう。次第に、あなたの耳には、根拠のない陰口は届かなくなるでしょう。

また、多少勇気が必要かもしれませんが、もし、陰口を言っている人がわかったら、堂々と「あなたがこう言っていると私の耳に入っているが、その根拠は何でしょうか?」と聞くことも効果を発揮します。あくまでも、根拠を聞くのであって、言わないでほしいとお願いしたり、相手を責めたりはせずに、堂々と根拠を聞くのがポイントです。

他人の悪口・批判への同意を求めてくる人への対処法

これは厄介な問題です。他人のネガティブ評価への同意を求められたときは、すぐにその場で否定することが大切です。否定しないと、後々、同意しているとみなされてしまう危険性があるからです。

もしくは、真っ向から否定するのではなく、「いろいろな考えがありますよね」と返し、その場を離れましょう。それでもその人物へのあなたの意見を求められたなら、「いろいろな考え方があると思います。それぞれの立場もありますし、私はそういうことは何も考えたことがないので……」と、悪口に加担しないよう細心の注意を払うのが得策です。