消費者の口から「これが欲しい」は出てこない
言葉で「どう思いますか」と尋ねるだけでは、ここまではっきり言う人はいません。本人もそこまで意識していないからです。でも絵にすることでイメージが具体化される。
私が「この二人って、なんだかずいぶん違いますねえ」と指摘すると、「ああ、違いますね」と初めて気づいた様子です。さらに私が、「Sブランドのユーザーは、あなたご自身に似てませんか」というと、「あ、いやだ。けっこう似てますね(笑)」。でも部分的に共通点があったとしても、おそらくは理想を投影したあこがれの女性像なのでしょう。
つまりユーザーは潜在意識で「Sブランドのダイエットサプリを飲むと、こういう女性になれるはず」というイメージを描きながらサプリメントを摂取しているということです。このユーザーがもしRブランドのサプリを飲むとしたら、「ああ、自分はもうどうしようもない、ダメなオバサンなんだ……」と思いながら飲むことになる。
こんなにもイメージが違うのであれば、そのイメージを変えない限り、Rブランドを使ってもらえるわけがない。言葉で尋ねるのではなく、イメージを絵に描いてもらうことで、そのことがはっきりわかったのでした。
消費者の口から「こういうものが欲しい」と言ってもらえるかもしれない、というのは大いなる「幻想」です。そういう幻想はさっさと捨てたほうがいい。なぜなら消費者がまだ気づいていないニーズが「インサイト」なのですから。
「インサイト」は、ひたすらユーザーと話をしたり、イメージをビジュアルで伝えてもらったりする中で、そのときの表情やしぐさも含めて、マーケターが読み取るしかないのです。
構成=長山 清子 写真=iStock.com
大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。他に『インサイト実践トレーニング』『戦略インサイト』(ともにダイヤモンド社)など。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っており、消費財・サービス・テック系企業などで実績多数。インサイト オフィシャルページ