「なぜ」の繰り返しは真実を遠ざける
「インタビュー調査では、“なぜ”を4回以上聞きましょう」という手法がマーケティング・リサーチの教科書などに載っています。たとえば「なぜ商品Aより商品Bのほうがいいのですか?」と聞く。相手が「商品Aのほうが便利だから」と答えたら、「なぜ商品Aのほうが便利だと思うのですか?」というように、「なぜ」を繰り返して理由をどんどん掘り下げていくというものです。
しかしこの聞き方をすると、相手は詰問されているような感じを受ける。特に日本人の場合は、「どうして?」「なぜ?」と何度も聞かれると、「あれ、もしかして私、ほかの人と全然違うこと言っちゃった⁉」と不安になってしまう。結局、“なぜ”と聞くたびにバリアができてしまい、真実から遠ざかっていく。
言葉で消費者のニーズを探るのは、どうしても限界があるのです。
絵に描いてもらうと本人も気づかないニーズが出る
そこで私がよく使う手法が、ユーザー自身に絵を描いてもらう投影法という方法です。あるダイエットサプリメントの商品開発を例にとってみましょう。
ダイエット関連の商品というのは、ユーザーが自分の本当の気持ちをなかなか話しにくいものです。それどころか、本当の気持ちに自分でも気が付いていない場合が多い。
私が担当していたのはRというブランドのダイエットサプリメントでした。競合にSというブランドがあり、ユーザーがSからRにブランドを切り替える「ブランドスイッチ」はあり得るのかを調べるため、まず、Sブランドを使っている人に「Rブランドをどう思うか」というインタビューをしました。
「Rブランドですか? いいと思いますよ。お店の棚でも、いつもSブランドの横に並んでますしね。でもSブランドが気に入ってるので、Rブランドは使う必要がないというか……」というあたりさわりのない回答しか得られませんでした。
そこで、「SブランドとRブランド、それぞれどんな人が使っているか、絵に描いてみてください」と言って、人間の立ち姿を簡略化した「棒人間」が二人並んでいるシートを渡してみました。この棒人間に服や髪型をプラスして描いてもらうのです(図表1)。
「絵を描いてもらうのは、難易度が高くない?」と思うかもしれませんが、女性は比較的スラスラと描いてくれます。
そんなふうにして描いてもらった絵について、本人の口から説明してもらいます。すると、自分が使っているSブランドのユーザーは、「20代後半で広尾に住んでいて、おしゃれでスタイルがよくてきれいで、もともときれいな人がさらにきれいになるためにSブランドのサプリを飲んでいる」というイメージが出てきました。
いっぽう「Rブランドを飲んでいる人ってどんな人ですか?」と聞いて絵に描いてもらうと、「似合わないフリフリの洋服を着て、髪型は野暮ったいクルクルパーマをかけていて、37歳くらいで田舎に住んでいて、太っていてどうしようもない人が困った揚げ句、Rブランドを飲んでいる」というイメージが出てきた。