儲けを考えるとアイデアは陳腐になる
エムスクエア・ラボの創業が2009年。以来、農業に関わるさまざまな事業にチャレンジし、準備に2年あまりをかけたやさいバス事業が2017年に始まったこのころから、ようやく会社の経営が軌道に乗り始めた。
どこから手を付けたらいいかわからないほど、課題だらけだという農業の課題解決に取り組む加藤さんだが、事業のアイデアはどのように生み出しているのだろうか?
「お金のことを考えると陳腐な解決策になってしまうので、儲けはとりあえず置いておいて、本来の理想に立ち返ります」
加藤さんの発想はスケールが大きい。「人類の繁栄と農業は切り離せないんです。狩猟生活だと、いつ食べ物が手に入るかわかりませんが、農業ができて、やっとその不安から解放された。根本的な農業の価値って何だろう? 『生きる』って何だっけ? というところから事業を作っているつもりです」
リーダーの思想に灯がともると、そこに多くの人が集まってくる。
「私は研究者なので、事業で未来をつくろうとするときは、『人類のテーブルを広げる』ことを考えます。単に自分の会社を大きくしようということではなく、人類の可能性を広げるために、誰も踏み入れていない場所に踏み込み、誰もマネできない構想で踏み込んでいきたい。それを私は、“エッジを刻む”という言い方で表現しています」
「エッジを刻むときには、1社ではできないので、行政や企業、一般の人など、いろいろな協力者が必要になります。思想が伝わると動いてくれることもあるし、数字的なメリットがないと動いてくれないこともある。いろいろなバランスが求められるんです」
“経営者”になるために必要なこと
研究者、技術者としては多くの実績を重ねていた加藤さんだが、「『経営者』になるのは時間がかかったかな」と振り返る。メンバーそれぞれが能力を発揮しながら、同じ方向に向かって頑張れるチーム作りや、組織をまわすための経営管理も求められる。「過去には、ある業者に売掛金未回収で逃げられたこともあります。経営コンサルタントの兄に言わせると『勉強代だな』と(笑)。自分で決断して失敗して、尻ぬぐいして……というのを何回か繰り返さないと経営者にはなれないんだと実感しました」と話す。
「失敗しても逃げずに正面から対峙する。それだけは守っています」という加藤さん。失敗は数えきれないほどあるが、「私の場合、失敗したら、だいたい言いふらしますね(笑)。そうすると、どこかから回答がやってきますから」と語る。