食をフェアに流通させるしくみを、静岡から世界へ

「命がけで生み出した」というやさいバス事業は、「世界の食をフェア(公平)に流通できるようにする力を持っていると思うんです」と話す。既に、ケニアや南アフリカ、インドなどで展開できないかという話も上がっているという。

巨大なグローバル企業が各地の流通を独占するのではなく、「それぞれの地域の人たちがつながることで、その地域が食で満たされるというネットワークを作る。やさいバスはそんな思想で作られているので、これを世界に広げることが目標です」と意気込む。

松坂屋静岡店の店頭に並ぶ、「やさいバス」の野菜
松坂屋静岡店の店頭に並ぶ、「やさいバス」の野菜

加藤さんは、そもそもこうした事業のアイデアは、静岡にいたからこそ生まれたのかもしれないと話す。

「私はほぼ東京で育ったんですが、東京のことは“魔界”って呼んでるんです。楽しいところだけど、あわただしくて、いつも追い立てられているような気分になる。静岡にいると、情報は自分から取りに行くものですが、東京にいると情報は勝手にどんどん目に入ってくる。そうすると自分の信念が影響されやすくなってしまうんです。そういう状況では、こんな事業は生み出せなかったんじゃないかと思います」

「冬も暖かいし、食べ物もおいしいし、本当にいいところですよ。みなさん、Welcome to 静岡です!」と笑顔を見せてくれた加藤さん。静岡発のネットワークが、日本中、そして世界中に広がる日が楽しみだ。

構成=池田 純子 写真提供=エムスクエア・ラボ

加藤 百合子(かとう・ゆりこ)
エムスクエア・ラボ代表取締役

千葉県生まれ。慶應義塾女子高校を経て、東京大学農学部1998年卒。英国Cranfield Universityで修士号を取得。2000年にはNASAの宇宙野菜工場のプロジェクトに参画。キヤノン勤務の後、夫のふるさとである静岡県菊川市に移り住み、産業用機械の開発企業で研究開発リーダーを務めた。2009年にエムスクエア・ラボを創業。専門分野は、地域事業開発、農業ロボット、数値解析。2020年6月には、エムスクエア・ラボにも出資するスズキの社外取締役に就任した。