地元の大学を入り口に農業に参入
とはいえ、農業は保守的な業界だ。そもそも“新参者”が簡単に入っていけるものなのだろうか。
「農業界には、『誰かに助けてほしい』という課題がいっぱいあるんです。課題の整理が難しくて入り口が見えないくらい。そうした意味では、課題解決があまりに難しくて入るのは大変です。ただ私がラッキーだったのは、関わった入り口が大学だったことです」
ちょうどそのころ、地元の大学が行政や企業と手を組み、地元の農業の課題を解決するためのビジネスプランを考える、農業スクールを開校していた。半年間で週1回というゆるやかなカリキュラムに、加藤さんは「これなら通える」と申し込んだのだ。
「私は、日本の農業があまりにクローズドで、その課題すらも周りにわかってもらえていないことに忸怩たる思いを持っていました。そこで、農業の情報を世界に発信するという事業プランをつくったんです。それを、参画している組織の方々に評価していただき、そこからプロジェクトを始めることができました。『元気なお姉ちゃんが静岡の農業に来た』と知らしめた(笑)」
農家の声から生まれた新事業
しかし、最初に手掛けた情報関連事業は「にっちもさっちもいかなくてすぐに撤退」。次に、農家を訪ねて、そのインタビューを5カ国語のブログで発信するという事業を2年間続けた。かつて携わっていた工業の世界では、日本も世界と互角に戦っていたのに、農業が国内に閉じこもっていたのがふがいなかったのだ。
「今は影も形もありませんが(笑)、海外からからの問い合わせもあり、世界に向かって開くとそれなりにアクションがあるという手ごたえは得られましたね」
そういった活動を通して農家と話すうちに、大きな課題が物流にあることが見えてきた。
「農家がそれぞればらばらに宅配便を使ったり車を走らせてたりして配送すれば、コスト高になるのは当たり前。ならば、集配先も配達先も集約し、なるべく1台の車に多く載せて走らせたほうが、コストも安くなるし手間も減り、農家も生産に集中できる時間が増やせます。物流の問題をクリアできれば、いろいろなところがうまく回ると思いついたのです」
こうして生まれたやさいバスだが、始めてみると、そう簡単には進まなかった。農家に、慣れ親しんできた「これまでのやり方」を変えてもらうのは一苦労だった。
「以前は好きな時間に配送業者に取りに来てもらっていたのに、バス停にやさいバスが来る時間に合わせて農産物を持って行かなくてはならないというのは、大きな変化。これを納得してもらうのは大変でした。また、コスト削減のためにペーパーレスにしていたのに、ITにはアレルギーがある方も多く、『なんでファックスじゃダメなんだ』と言われることも」。しかし、売り手、買い手の双方にメリットがあることを丁寧に説明し、その良さを実感してもらうにつれ、利用者も増えていった。
さらに、今回の新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、売り先を失った農家から相談が殺到し、利用者は2カ月でほぼ倍に増えた。売り上げ自体は以前に比べて4割もの減少になったが、結果的にコロナがやさいバスの利便性に目を向けてもらうきっかけになったという。