あんこ味のビールが欲しい!
6月末現在、「HOPPIN’GARAGE」に寄せられた400超のアイデアのうち、試作品として造られたビールはすでに16種。そのうち、ネットを通じて一般にも販売する「商品化」にまで至ったビールも5種あり、「程度の差こそあれ、試作したすべてのビールは、量産化の可能性も視野に入れて考えています」と土代さん。
例えば、アラサーのキャリア女性が発案した「わたしはあんこびーる。」。クラフトビールにハマる一方、甘いモノも大好きだという彼女は、「武装せず、ありのままの自分になれるような、癒し系のビールが欲しい」との思いで、あんこ味のビールのアイデアを寄せたそうです。
この奇抜な企画を、土代さんらは「ビールのプロからは、絶対に出ないアイデア」だとして採用。その後、「あんこのパウダー(市販品)を使えば、開発しやすいのでは?」や「意外に、麦芽の香りが活かせる味なのでは?」などと議論を重ね、19年6月に試作品が完成したといいます。
消費者コミュニティ維持には困難も
一般に、こうした「消費者参加型」の開発手法が脚光を浴びるようになったのは、10年ほど前から。趣味やライフスタイルに特化したサイトやSNS、アプリ等が、参加型のコミュニティを築き上げ、商品開発に取り組むようになったころからです。
その草分けともいえるのが00年、Web上に「ものづくりコミュニティ」を立ち上げた、無印良品(良品計画)。同Webは「持ち運べるあかり」など、一般に「あったらいいな」と思う商品を消費者と共に開発し続け、14年には「IDEA PARK」の名でコミュニティをリニューアル。いまも同Web上では、ユーザーによる熱いコメントが投稿され続けています。
一方で、一度はこうしたコミュニティを立ち上げながらも、運営を休止してしまった企業も数多い。私も複数の企業と協業経験がありますが、消費者コミュニティは日々の運用に手間がかかる反面、そこで生まれた商品が必ずしもヒットするとは限りません。
社内の「階級の壁」を越えた商品開発が可能に
だからこそ、社長や役員クラスのトップレベルが認めてくれないと、なかなか続けられない。その意味でも、社長みずからがそのコミュニティに参加してくれたのは、大きいですよね。
土代さんが所属する部署(新規事業開拓室)は社長直結で、だからこそ直接メールで誘いやすかったとも言えるでしょう。ただ、「もし飲み会が『オンライン』でなくリアルの場で行われていたら、あれほど気軽には誘えなかったと思う」と彼はいいます。
そう、オンラインには、「創る人と飲む人、売る人」だけでなく、「一般社員と管理職、社長」といった階級の壁を超える力もある。オンライン飲み会第2弾(6月30日開催)
も社内外に好評で、当日100人超の参加者に披露された「HOPPIN' GARAGE おつかれ山(さん)ビール」は、初回準備分(600セット)がなんと即日完売。翌朝のAmazonの全ビール類ランキングでも、「第2位」を記録したといいます(7月1日午前10時時点)。
初めはやむを得ないきっかけで始まった同社のオンライン飲み会ですが、実は予想以上に大きな「破壊力」を備えていたようです。
画像提供=サッポロビール 写真=iStock.com
立教大学大学院(MBA)客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか多数。これらを機に数々の流行語を広める。NHK総合『サタデーウオッチ9』ほか、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。