適度な距離を取ることによる意外な効用

テレワークの活用、ソーシャルディスタンスの意識などによって変化するのは、物理的な距離だけではありません。大きな変化の一つに、上司が部下を怒れなくなったことが挙げられるだろう、と思います。

オンラインミーティングは、場所や時間にとらわれないメリットがある一方で、表情、所作などのニュアンスが伝わりにくいというデメリットもあります。さらに、注意や指摘したあとのフォローがしづらいことも、この数カ月で多くの人が実感しているところでしょう。顔を合わせて仕事をしていれば、さりげなくねぎらいや励ましの言葉をかけることもできますが、オンラインではそのタイミングが難しい。出社型の勤務に戻っても、ソーシャルディスタンスを意識すれば、やはり業務外でのコミュニケーションの機会は減少していくでしょう。

上司に強く言われることが減るということは、自分で気づいて改善しなければいけない、ということを意味します。それができれば、この変化は成長のチャンスに変換できます。ソーシャルディスタンスは「個人個人が自律的に働き、成長するためのほどよい距離」となるかもしれません。これまで苦手だった上司、同僚とも、一定の距離感を保ってコミュニケーションをとることで、お互いのよさに気づくこともあるでしょう。

2m離れていたとしても、声は届く。表情は見えて、所作もわかる。上司は後ろからPCをのぞいて「ちゃんとやってるか」を確認することはできなくなるけれど、部下の仕事への姿勢、温度感は感じ取ることができる。純粋に成果物で評価することが当たり前になる。ソーシャルディスタンスを保つなかで、関係性についての新しい発見がきっとでてくるはずだ、と思っています。

前向きに働ける職場環境が問われる

今回のコロナ禍で、「毎日出社しなくてもいいのでは」「在宅でも、成果をあげられる」と気づいた人は多いでしょう。でも、「今後もフルリモートで仕事をしたいか?」と問われたらどうですか? テレワークは快適だし、生産性も上がる。でもときどきは出社したいし、直接お客様にも会いたい。こんなふうに思う人が多いのではないでしょうか。

これから各企業に求められるのは、社員が前向きに働ける環境をつくることです。社員に成長の機会を与えられているか、能力開発の場となっているか、社員同士が集まることでモチベーションを感じる場となっているか。そういう組織であれば、わざわざ出社する場合でもネガティブな気持ちを抱くことは少なくなるでしょう。

モチベーションが上がるチーム、組織づくりには、同じ空間でその場の雰囲気など、言語化しづらいものを共有することがキーになります。成果を出せるプロジェクトチームというのは、そうした組織づくりができていて、普段は別々の場所にいても互いにどこかで「会いたい」という気持ちを持っていることが多いものです。チームメンバーが信頼関係を築き、お互いを尊敬しあう風土のなかでは、人と人は必ず精神的にも物理的にも近づいていくのです。

「会いたい」「このメンバーと仕事をしたい」と前向きに思える組織かどうか。一人ひとりの強みを生かすマネジメント体制に変わっていく必要があります。