新型コロナウイルスの感染拡大でまたたく間に市民権を得た「ソーシャルディスタンス」という言葉。このソーシャルディスタンス、ビジネスの上では意外と適度な距離感かもしれない、と感じている人も多いのでは? 「感染症の脅威が去ったあとも、上司とのソーシャルディスタンスは続けたい!」という内なる叫び、プロシェアリング(プロ人材のシェア)サービスを運営するサーキュレーション代表取締役の久保田雅俊さんにぶつけてみました。

嫌いな上司には「ソーシャルディスタンス」を有効活用

「満員電車がしんどい」「苦手な上司がいる」「オフィスがイケてない」「勤怠管理が面倒」。コロナ禍で急遽導入されたテレワークは、感染症予防対策としてはもちろん、こうした会社への不満を解消する方法としてもすばらしい効果を発揮したようです。働きやすさという観点から、「ソーシャルディスタンスよ、永遠なれ」と願っている人も少なくないかもしれません。

自宅から取材に応じてくれたサーキュレーション代表取締役 久保田雅俊さん。
自宅から取材に応じてくれたサーキュレーション代表取締役 久保田雅俊さん。

しかし残念ながら、今後は多くの企業で出社が前提の旧来のスタイルへと揺り戻しが始まるでしょう。テレワークを推進する企業でも、仕事のすべてをオンライン上で行うのは難しいはずです。ただ、コロナ以前とこれからのWithコロナ、Afterコロナでは、出社時のコミュニケーションのあり方も大きく変わっていくのではないか、と思います。

まず、嫌いな上司には「ソーシャルディスタンス、ですよね!」ときっちり2mを死守すればいいんです。これまでは管理したがりの上司が後ろからPCをのぞき込んできても、「やめてください」とはなかなか言いづらかった。でも、これからはお互いに「ソーシャルディスタンスを守るべき」という共通認識があるわけで、これは大いに使えます。

ただ、注意したいのは、「ソーシャルディスタンス」以上の言葉を用いないこと。「近寄らないでください!」「もっと離れて!」。もしオフィスにこんな言葉が飛び交うとしたら、その場の空気は最悪でしょう。できることなら、ソーシャルディスタンスという言葉も使わずに適度な距離を保てるのがベストです。

さて、あなたが上司の立場で、部下から必要以上に距離をとられていると感じたなら……。つまりはそういうことです。自分の行動が部下に嫌がられている、マネジメントがうまく機能していないと気づかなくてはならない。部下とのコミュニケーションを見直すチャンスです。

適度な距離を取ることによる意外な効用

テレワークの活用、ソーシャルディスタンスの意識などによって変化するのは、物理的な距離だけではありません。大きな変化の一つに、上司が部下を怒れなくなったことが挙げられるだろう、と思います。

オンラインミーティングは、場所や時間にとらわれないメリットがある一方で、表情、所作などのニュアンスが伝わりにくいというデメリットもあります。さらに、注意や指摘したあとのフォローがしづらいことも、この数カ月で多くの人が実感しているところでしょう。顔を合わせて仕事をしていれば、さりげなくねぎらいや励ましの言葉をかけることもできますが、オンラインではそのタイミングが難しい。出社型の勤務に戻っても、ソーシャルディスタンスを意識すれば、やはり業務外でのコミュニケーションの機会は減少していくでしょう。

上司に強く言われることが減るということは、自分で気づいて改善しなければいけない、ということを意味します。それができれば、この変化は成長のチャンスに変換できます。ソーシャルディスタンスは「個人個人が自律的に働き、成長するためのほどよい距離」となるかもしれません。これまで苦手だった上司、同僚とも、一定の距離感を保ってコミュニケーションをとることで、お互いのよさに気づくこともあるでしょう。

2m離れていたとしても、声は届く。表情は見えて、所作もわかる。上司は後ろからPCをのぞいて「ちゃんとやってるか」を確認することはできなくなるけれど、部下の仕事への姿勢、温度感は感じ取ることができる。純粋に成果物で評価することが当たり前になる。ソーシャルディスタンスを保つなかで、関係性についての新しい発見がきっとでてくるはずだ、と思っています。

前向きに働ける職場環境が問われる

今回のコロナ禍で、「毎日出社しなくてもいいのでは」「在宅でも、成果をあげられる」と気づいた人は多いでしょう。でも、「今後もフルリモートで仕事をしたいか?」と問われたらどうですか? テレワークは快適だし、生産性も上がる。でもときどきは出社したいし、直接お客様にも会いたい。こんなふうに思う人が多いのではないでしょうか。

これから各企業に求められるのは、社員が前向きに働ける環境をつくることです。社員に成長の機会を与えられているか、能力開発の場となっているか、社員同士が集まることでモチベーションを感じる場となっているか。そういう組織であれば、わざわざ出社する場合でもネガティブな気持ちを抱くことは少なくなるでしょう。

モチベーションが上がるチーム、組織づくりには、同じ空間でその場の雰囲気など、言語化しづらいものを共有することがキーになります。成果を出せるプロジェクトチームというのは、そうした組織づくりができていて、普段は別々の場所にいても互いにどこかで「会いたい」という気持ちを持っていることが多いものです。チームメンバーが信頼関係を築き、お互いを尊敬しあう風土のなかでは、人と人は必ず精神的にも物理的にも近づいていくのです。

「会いたい」「このメンバーと仕事をしたい」と前向きに思える組織かどうか。一人ひとりの強みを生かすマネジメント体制に変わっていく必要があります。

各社、各部署のメソッドが必要

オンラインミーティングが急速に広まったことで、思わぬ副産物がありました。以前よりも沈黙に耐えられるようになったり、一人が喋っているときは全員が耳を傾けるようになったり。これまでの会議では誰かの発言中にもおかまいなしに差し込んでくる人、いましたよね(笑)。オンラインでは、親父ギャグやハラスメント発言も飛び出しにくい。その分、議題を特定しやすくなっているはずです。

一方、定例会議をオンラインで開催してみたら、「これ、何のためにやってたんだっけ?」とその無意味さを発見して驚愕した方も多いはずです。

ミーティングの前には当然、アジェンダを準備する。この打ち合わせで何を決めるのかを前もって決めておく。今後もテレワークを推進し、メンバー同士が適度な距離感を持って働くためには、各企業や部署でテレワークやハイブリッドワーク(出社とテレワークが混在する働き方)のメソッドを作っていく必要があります。

これからは圧倒的な能動性と、成果物の提出が肝になります。能動性がないメンバーは、そもそも居場所がなくなるでしょう。経済が混乱する中で、同時に働き方のパラダイムシフトも起きているのが、私たちが立つ現在地です。いますぐに最適解を見いだし、かためようと気負わなくてもいい。ただし、新しい働き方でいかに成果を出すか、早めに考え、実行していくことが重要です。