「学費のため」「老後のため」はなぜ間違いか

これに対して、お金を目的別に管理・運用するというのは、例えば、「住宅の頭金として」とか「子供の学費のために」とか「老後に備えて」といった使う目的に合わせてお金をそれぞれ別の場所に置いたり、別々の金融商品で運用したりすることを言います。「え! それがなぜ悪いの?」と思われるかもしれません。なぜなら世の中の多くのファイナンシャル・プランナーの人も「目的別にお金は増やしなさい」ということが多いからです。でもこれは明らかに間違いなのです。なぜそうなのかということをじっくりと考えてみましょう。

そもそも用途が何であれ、必要な支出が発生すれば自分のふところからお金が出て行くこと自体は変わりません。大切なことは①いかに自分の手元にある時にうまくお金を増やせるか、そして②支出の内容をチェックしていかに無駄な支出を抑えるか、ということが大切なことです。この内、②の支出に関しては予算化することである程度無駄な支出を抑えることができると言われています。これは恐らくその通りでしょう。FPの人がよく言う、「お金の袋分け」というのは支出の予算化をするにあたって、それを可視化する方法ですから、支出のコントロールにはある程度有効です。でもお金を増やす方法まで袋分けしてしまったら全く意味がありません。なぜなら運用資金を小分けにしてしまうと、運用そのものが非効率になってしまうからです。

まとまった金額がないと分散投資はできない

大江英樹『今さら人には聞けないけどとっても知りたい投資とお金のはなし』(ソシム)
大江英樹『今さら人には聞けないけどとっても知りたい投資とお金のはなし』(ソシム)

目的別にお金を小分けしてしまうと、一つのかたまりの金額は小さくなります。金額が小さくなってしまうと、その中で適切に分散投資をすることもむずかしくなります。つまり目的別運用をしてしまうと、きちんとした分散投資ができなくなる恐れがあるのです。これに対して「いや、そんなことはないでしょう。学資のようにリスクを取れないものは学資保険にしておけば良いし、老後資金のように期間の長いものはリスクを取れるのだから株式や投信で運用すればいい。ちゃんと分散投資できるじゃないですか」と言う人もいるでしょう。でもそれは分散投資ではありません。単に目的毎にお金の置き場所を変えているだけです。分散投資というのは価格の動きの性質の異なる、そしてリスクの性質とその度合いの異なる複数の資産に分けて投資をすることです。そしてそれはある程度まとまった金額であるからこそ、できることなのです。

自分の資産を運用するにはトータルで管理することが最も大切です。リスクを取れる部分のお金はリスク資産に投資し、あとは安全な資産(預金、債券)にしておく。そしてリスク資産については過大な価格変動の影響を受けないようにするためにきちんと分散投資をしておくことです。どんな用途であれ、資金が必要なことが出てきたら、それは安全資産から引き出して使えばいいだけのことです。そのために一定割合のお金は価格変動のない預金などで置いておくべきなのです。「分散投資」と「お金の目的別運用」は全く別物であり、これを混同してはいけません。「分散投資」は必要なことですが、「お金の目的別運用」はあまり意味がないことを知るべきです。

大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト

大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。