保守的な企業でも「全員が揃って出社」は過去のものに

大手住宅関連メーカーの人事担当者も「緊急事態宣言解除後は、社員の40%が在宅、60%が出社という方針に切り替えた。つまり週5日のうち3日が出社日、2日が在宅という組み合わせに変わった。部署内で出勤日を調整し、全員が出社することのないように調整している」と語る。同時に同社は満員電車を避けるために②の時差通勤も導入した。

「朝出勤したら出勤時間を入力し、ホワイトボードに本日は何時から何時までの勤務と、スライド勤務がわかるように書かせている。勝手に4時に帰ったら、具合でも悪いのかなと心配してしまうので。社員全員の在宅勤務は初めての経験。週2日在宅でしかも出退勤が自由というのは、もともと保守的な企業風土では考えられなかったことだ」(人事担当者)

ヨーロッパの企業では部署の社員全員が集まる日はほとんどないと、現地の駐在経験者に聞いたことがあるが日本でも現実化している。全員が揃って定時に出社するという企業文化が、コロナを契機に過去のものになりつつあるようだ。

この状態をコロナが収束しても続けていくかについては社内でも議論があるらしい。しかし「とくに子育て中の女性からは圧倒的に好評。技術系の設計部門の女性でも、自宅に設計機器を持ち込めば図面の作成ができる。優秀な女性の獲得はもちろん、社員の定着を考えると、この流れは止められないだろう」(人事担当者)と指摘する。実際にパーソル総合研究所のテレワーク実態調査(5月29日~6月2日)でも、テレワーク実施者の69.4%がテレワーク継続を希望している。

在宅勤務者が増えると、当然社員一人につき一つの机はいらなくなる。③の共有の執務スペースとするフリーアドレスを導入する企業は増えていくだろう。三井物産も6月に稼働した新本社はフリーアドレスを導入している。社員にとっても四六時中、上司と顔を突き合わせていたくないだろうし、自分の好きなスペースで仕事ができることをありがたいと思う人も多いだろう。

転居を伴う転勤も減らすことが可能に

こうした働き方が定着すれば、さらに以下のような働き方も普通になるかもしれない。

④出張や転居を伴う転勤の減少
⑤ワーケーション(リゾート地などで働きながら休暇取得を行う)の実現

海外や全国に拠点を持つ企業では出張や転勤は必須だが、今回のコロナ禍で出張は原則禁止となった。そのためWebを駆使しながら社内会議や取引先との商談なども実施された。緊急事態とはいえ、意外にWebの有効性を確認した企業も多い。

今後は必要不可欠な出張に限定されるだろう。また、転勤も現場での実践経験など若手社員の育成を目的にしたものは継続されるだろうが、工場長、支店長、営業所長、管理部門長などマネジメントを担う人たちは、Webと定期的な出張を行うだけでよく、転居を伴う転勤は極力減るのではないか。たとえば外資系IT企業のシンガポール・日本・韓国の人事責任者を兼務していた人からかつてこんな話を聞いたことがある。

「自宅はシンガポールにあったが、日本と韓国の人事部門の会議や部下の面談はテレビ会議でやっていた。日本法人の人事制度改革や解決すべき課題が発生した場合は、現地に飛んで問題の処理に当たっている。必ずしも常駐しなければいけないというものではない。ただし、問われるのは、各国の文化・風土を受容する多様性と常に部下を掌握するなどマネジメント力だ。それさえしっかりしていれば問題はない」

海外でもできるなら、国内の異動の範囲なら転勤の必要はないかもしれない。ただし、部下の状況を把握し、的確な指示ができるマネジメント能力が必要なことは言うまでもない。

また、⑤のワーケーションにしても、在宅勤務が恒常化すれば、会社の特別休暇と有給休暇、そして仕事を組み合わせて国内外のリゾート地での長期休暇の取得も可能になるだろう。全員が揃って出社し、全員が一斉に特別休暇の夏季休暇や冬期休暇を取得するという風習がなくなれば、特別休暇を個人の休暇に充てることもできる。

以上の働き方の変化は社員にとっては理想的といえるものだろう。しかし、そうした働き方は一方では企業にとってもメリットがあるものでなければならず、企業がそれを追求しすぎると社員にデメリットをもたらす可能性もある。企業のメリットと、懸念される点は以下のようものである。