マーケットは悲観の極みから一転

しかしながら、今回は米国はじめ先進諸国政府及び中央銀行の対処が迅速でした。想定外の天災に対して、産業界の一時的経済活動停止における資金的困難や国民の当座の生活支援などに対処した財政投入と、金融システム瓦解を未然に防ぐための資本市場への制約なき資金供給などが実行されたわけで、その規模はリーマン危機時をも大きく凌駕するまさに空前絶後。

ちなみに米国ではこれまでに2兆5千億ドルの財政出動で、これは同国経済規模(GDP)の12%超。そして金融緩和の流動性もこの3カ月で3兆ドル弱のスケールで実施されており、米FRBの総資産は一気に1.8倍増です。そうした安心感からマーケットは悲観の極から政策期待へと、ざっと半値戻しで変わり身早く反応したのです。さて日本でもようやく緊急事態宣言が解除されましたが、主要国でも軒並み経済活動再開へと動き始めたことから、足元の株式市場は経済急回復期待のリバウンド相場が現出。現状ほぼ急落前水準を取り戻したあと、コロナ第二波への懸念との相克で振れ幅大きく、楽観悲観のもみ合い相場といったところでしょうか。

この新型ウイルスの完全収束にはまだ時間を要するでしょうが、やがては完全制圧されることでしょう。それ以降を平常時とするなら、新たな平常時はコロナ以前のそれからは大きく違ったものとなるでしょう。世界の主要国で在宅勤務が主流となり、人々の巣篭もり生活は非接触ツールであるITサービス普及を加速させました。

コロナ後の平常時は新常態(ニューノーマル)と呼ばれますが、それは生活基盤のIT化のみならず、産業界の事業構造や社会全体の常識に至るまで、大きな価値観の大転換期となるのではないでしょうか。

中央銀行の役割も転換する可能性

そして国家のガバナンスやイデオロギーにまで影響が及ぶかもしれず、金融財政分野での政府、そして中央銀行の役割・在り方までもパラダイムシフトするかもしれません。それは厳格な規律に立脚した健全財政の概念が瓦解し、中央銀行が金融調節のみならずリスク資産のフィールドにまでコントロール機能を果たすという新常識への転換さえ想定され得るということです。

実際リーマン・ショック以降、米欧日の金融当局は揃って大胆な量的金融緩和を行い、各国中央銀行はいずれも金融資産保有額を劇的に拡大させたままでしたが、今般のコロナ危機においてはまたぞろ緩和を重ね、更に中銀のバランスシートは巨大化したわけです。併せて各国政府が実行した巨額の緊急財政投入によって、財政規律に厳格なドイツでさえそのタガを外したのでした。

米欧日先進諸国が揃って金融緩和で余剰マネーを増大させ、同時に各国の財政悪化も一様に進展する。これまでの常識的悲観では、いずれマネーの過剰流動性も先進国の財政悪化も、超インフレをもたらす要因になると見られますが、先進国が仲良く同時に金融緩和と巨大バランスシートの中央銀行を是認する姿勢を続けるとすれば、この事実が新常態になる、即ち財政規律や中銀の資産規模等に関する既存の常識が楽観的ニューパラダイムに置き換わっても不思議はないということです。