3月の暴落から一転、株式市場は大きく回復。そのスピードはリーマン・ショック後よりも速い。長期分散投資はアフターコロナにおいて報われるのだろうか。
日本株式市場
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上昇基調に慣れきっていた投資家たち

米リーマン・ブラザーズが破綻したリーマン・ショックが2008年9月。ここからグローバルに金融システムが機能不全に陥り世界金融危機へと進展し、マーケットインパクトは甚大で、2009年にかけて未曽有の株式市場下落が続きました。その後主要国中央銀行による前例のない量的金融緩和政策を下支えに世界経済は危機を脱して、以降は歴史上類例なき余剰マネーが株式市場をはじめあらゆるリスク資産に流れ込み、とりわけ世界の株価は10年以上押し上げられ続けてきました。右肩上がりの株価上昇基調がこれだけ長く続いていると、そのトレンドに慣れ切ってしまい、上昇することを前提とした相場感しか持てなくなっていた投資家もたくさんおられたことでしょう。

そうした楽観が支配する中で俄かに発生したのが新型コロナウイルス感染拡大によるパンデミックでした。私たちも現実に体験した感染恐怖の連鎖によって、世界中の企業活動は否応なく突然停滞を余儀なくされて、生活者の消費活動も著しく減退しました。そうした言わば経済の一時的心肺停止が、相場下落への一斉想起へと繋がり総悲観のモメンタムとなって、短期間でのパニック売りが起こったのです。

マーケットは悲観の極みから一転

しかしながら、今回は米国はじめ先進諸国政府及び中央銀行の対処が迅速でした。想定外の天災に対して、産業界の一時的経済活動停止における資金的困難や国民の当座の生活支援などに対処した財政投入と、金融システム瓦解を未然に防ぐための資本市場への制約なき資金供給などが実行されたわけで、その規模はリーマン危機時をも大きく凌駕するまさに空前絶後。

ちなみに米国ではこれまでに2兆5千億ドルの財政出動で、これは同国経済規模(GDP)の12%超。そして金融緩和の流動性もこの3カ月で3兆ドル弱のスケールで実施されており、米FRBの総資産は一気に1.8倍増です。そうした安心感からマーケットは悲観の極から政策期待へと、ざっと半値戻しで変わり身早く反応したのです。さて日本でもようやく緊急事態宣言が解除されましたが、主要国でも軒並み経済活動再開へと動き始めたことから、足元の株式市場は経済急回復期待のリバウンド相場が現出。現状ほぼ急落前水準を取り戻したあと、コロナ第二波への懸念との相克で振れ幅大きく、楽観悲観のもみ合い相場といったところでしょうか。

この新型ウイルスの完全収束にはまだ時間を要するでしょうが、やがては完全制圧されることでしょう。それ以降を平常時とするなら、新たな平常時はコロナ以前のそれからは大きく違ったものとなるでしょう。世界の主要国で在宅勤務が主流となり、人々の巣篭もり生活は非接触ツールであるITサービス普及を加速させました。

コロナ後の平常時は新常態(ニューノーマル)と呼ばれますが、それは生活基盤のIT化のみならず、産業界の事業構造や社会全体の常識に至るまで、大きな価値観の大転換期となるのではないでしょうか。

中央銀行の役割も転換する可能性

そして国家のガバナンスやイデオロギーにまで影響が及ぶかもしれず、金融財政分野での政府、そして中央銀行の役割・在り方までもパラダイムシフトするかもしれません。それは厳格な規律に立脚した健全財政の概念が瓦解し、中央銀行が金融調節のみならずリスク資産のフィールドにまでコントロール機能を果たすという新常識への転換さえ想定され得るということです。

実際リーマン・ショック以降、米欧日の金融当局は揃って大胆な量的金融緩和を行い、各国中央銀行はいずれも金融資産保有額を劇的に拡大させたままでしたが、今般のコロナ危機においてはまたぞろ緩和を重ね、更に中銀のバランスシートは巨大化したわけです。併せて各国政府が実行した巨額の緊急財政投入によって、財政規律に厳格なドイツでさえそのタガを外したのでした。

米欧日先進諸国が揃って金融緩和で余剰マネーを増大させ、同時に各国の財政悪化も一様に進展する。これまでの常識的悲観では、いずれマネーの過剰流動性も先進国の財政悪化も、超インフレをもたらす要因になると見られますが、先進国が仲良く同時に金融緩和と巨大バランスシートの中央銀行を是認する姿勢を続けるとすれば、この事実が新常態になる、即ち財政規律や中銀の資産規模等に関する既存の常識が楽観的ニューパラダイムに置き換わっても不思議はないということです。

財政赤字を是認する理論も

第二次大戦後、世界はドルが基軸通貨として覇権を握り、ドル本位制のもとで各国は通貨コントロールをしてきましたが、1970年代に入りニクソンショック以降は、ドルの発行が無制限となり、以後一貫してドルの通貨供給量は右肩上がりで増え続けています。即ちこの先もドルが基軸通貨であり続けることを前提とすれば、各国が自由にマネタリーベースを決められる現代通貨管理制度においては、通貨価値は米ドルに対する相対性で決まるものであり、ハード通貨を有する先進各国が揃って米ドルに準じて通貨供給量を増やしていくならば、発行通貨の信用が維持されている限りにおいては、通貨価値は一定の均衡が保持されるはずです。実際リーマン危機以降の米欧日による揃っての量的金融緩和政策は、顕著にインフレをもたらしていません。

この実態の中で、財政赤字は本当に減らす必要があるのか、或いは中央銀行のバランスシートは巨大化したままでは駄目なのか、既存の財政金融論的常識に対するアンチテーゼとして、それらを是認する理論も提唱され始めており、健全な国家財政や中央銀行のあり方が、実体経済や資本市場の実態に鑑みて変質していくことは、歴史的にも自然な流れなのだと言えましょう。

これからもずっと、様々な要因でマーケットは暴落と調整を何度となく引き起こすでしょうが、その都度過剰なバブルは淘汰され、優勝劣敗のふるいの基で産業界の新陳代謝が進む。そうした実体経済の健全な浄化作用が繰り返し機能することで、経済成長軌道は堅持されることを前提とすれば、世界経済の成長が生み出す将来の富をリターンの源泉とする長期国際分散投資は、アフターコロナでも合理的に報われるはずです。

そしてコロナショックの極端な相場変動下だからこそ、長期保有を前提に投資行動を継続することが何より大切で、その普遍性はコロナ後の新常態でも不変なことでありましょう。