時代の先駆けとなった、名門・エルメスの軌跡

約180年もの間、トップメゾンとして君臨し続けるエルメスは、色褪せることを知らない。早くから多様性をけん引し、女性の活躍に着目してきたその姿勢は、現代社会のスタンダードにさえなっているのだ。

(右)モナコ公妃のグレース・ケリー。妊娠中の大きなお腹を愛用のバッグで隠したことから、のちにバッグ「ケリー」の名が誕生した。(左)整理整頓が苦手というジェーン・バーキンのために、1984年に生まれた「バーキン」。
(右)モナコ公妃のグレース・ケリー。妊娠中の大きなお腹を愛用のバッグで隠したことから、のちにバッグ「ケリー」の名が誕生した。(左)整理整頓が苦手というジェーン・バーキンのために、1984年に生まれた「バーキン」。

エルメスが馬具工房としてスタートしたのは1837年。創業者のティエリ・エルメスが36歳のときだった。デザイン性と品質の高さはもちろん、今と変わらず機能美を追求した製品は、時のロシア皇帝やナポレオン3世をも虜にし、67年のパリ万国博覧会では初出品でありながら銀賞、89年にはグランプリも受賞している。

80年、2代目シャルル・エルメスにより、現在のパリのブティックがあるフォーブル・サントノーレに移転。馬具の卸だけでなく、顧客への直接販売をスタートさせた。

それから約10年後、馬の鞍を入れるバッグとして「オータクロア」が誕生。一方で1900年代に入ると、それまで全盛だった馬車に代わり自動車産業が活発に。それをいち早く見抜いていた3代目のエミール・エルメスは、社会進出する女性たちに向け、バッグのほか、グローブや財布などのスモールレザーグッズの販売に着手。この采配が今日のメゾンの原型をつくったともいわれ、彼が“ミスター・エルメス”と呼ばれる所以ともなった。

(左)「バーキン」の原形ともなった「オータクロア」。エルメスの革製品には馬具づくりで培われたタフさと気高さが同居している。©Hermès(右)現在のエルメスの核をつくったともいわれる「中興の祖」、3代目エミール・エルメス。商談や交渉にたけていて、優れた経営手腕を振るっていた。©RogerSchall
(左)「バーキン」の原形ともなった「オータクロア」。エルメスの革製品には馬具づくりで培われたタフさと気高さが同居している。©Hermès(右)3代目エミール・エルメス。優れた経営手腕を振るっていた。©RogerSchall